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第130話

 そんな振舞いを褒めるかのように、唯人は暁の唇を舐め、2度3度……と、まるで親鳥が雛へと餌を与えるように、その行為を繰り返した。 「ん……ふぅ」  少しの間そうしていると、混乱していた頭が徐々にその思考を機能させ、思い出したかのように体が痛みを訴えかけてくる。 「あ……あぁっ」 (そうだ、俺は……)  唐突に、さきほど見ていた淫らな夢は、現実なのだと実感した。 「暁、どうした?」 「……あ、ゆいっ……ゆいっ!」  縋るように名前を呼ぶが、暴力と快楽によって支配されていた惨い映像が、まるでフラッシュバックのように頭の中で再生され、羞恥心と恐怖心、それに……自己嫌悪の情とで心が引きちぎられてしまいそうになる。 (嫌だ……あれは、あんなのは……俺じゃ……ない) 「――っ!!」  刹那、目の前から色が消え、身体がガタガタと震え出す。  声にならない悲鳴が上がり、体中を掻き毟りたい衝動に強く駆られたが……身体は拘束されているから、自傷行為には至らなかった。  *** 「んっ……う゛、うぅっ!!」  猿轡を取り出してから、それを暁の口へと填めると、唯人は軽く舌打ちをしてから、薄い体を抱き締める。 「……許さない」  唯人にしては珍しく、唸るように放った言葉には、一つだけではなく三通りの意味が含められていた。  ひとつ目は、暁をこんなに酷く(なぶ)った相手へ対する(いきどお)り。  ふたつ目は、守れなかった自分自身への憤り。  そして――。 「他の奴に……使わせた」  自分以外の痕跡を付け、自分以外の男の事を考える暁が許せない。  不可抗力であることなんて百も承知しているが、だからといって、慰めるような真似は到底出来なかった。 (それは、偽善だ) 「暁、俺を見ろ」  声にならない悲鳴を上げる暁の顔を覗き込むが、開かれた瞳は遠くを見つめ、視線が絡むことはない。 「暁」  (らち)があかないと思った唯人は、彼の名前を低く呼びながら頬をバシリと打ち据える。 すると、ようやくこちらへ向けられた目から大粒の涙が溢れ出た。 「これを……他人に見せた?」  ベッドの上へと押し倒してから、その内腿へと指で触れ、怒気を含ませて聞いてみる。と、みるみるうちに暁の顔から朱みが抜け、蒼白になって震えはじめた。 「そう、暁は悪い子だ」  ようやくこちらに意識を向けた暁へと冷たく言い放つ。

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