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第133話
その方が、楽だったのだ。
そこから先の暁の記憶は曖昧なものになってしまうが、痛みにすら感じてしまう体を散々いたぶられ、最終的には精神が保たず、意識を遠くへ手放した。
「……よごれた……いらない……のに……」
朦朧とした意識の片隅に、はっきり響いた唯人の声。
全ては聞き取れなかったけれど、
『汚れた』
『いらない』
という絶望的な言葉だけは、耳の奥へとこびりついた。
(俺は、唯に……嫌われた)
そうなるのは当たり前だ。
彼から貰った大切な印を他の男に晒したあげ句、強要された筈のセックスで、狂ったように乱れたのだから。
(それに、撮られ……た)
撮影された映像を、唯人は見てしまったのだろうか?
だとしたら、そうでなくても、唯人に合わせる顔がない。
『誰にでも脚を開く淫乱』
漆黒に染まる世界の中で唯人の声を反芻 し、言葉にならない強い感情を吐き出すように暁は叫ぶが、まるで耳を塞がれたみたいに、濁った音しか聞こえなかった。
(消えたい。いなくなりたい)
『汚れたからいらない』
と、きっと唯人は言ったのだろう。
だから、暁を散々苛んだのに、挿入だけはしなかった。
(だったら、せめて……)
唯人の気が収まるまで、罰を受けようと暁は思う。それから……なるべく早く大学を辞め、姿を消そうと決意する。
(迷惑に……なるくらいなら)
映像が流出して、それが知人の目にでも留まれば、自分と親しくしている唯人も、好奇の目に晒されるだろう。
それだけは、絶対に、避けなければならない。
(俺はもう、いらない……から)
悲観的になる考えを、止める事もできないまま、表層をたゆたっていた意識は徐々に切れ切れとなり、夢すら見ないような深みへと暁はゆっくり墜ちていった。
***
最初暁が目を覚ました時、辺りには誰もいなかった。
体は再び拘束され、猿轡もされたまま……体中のあちらこちらに鈍い痛みを覚えたが、何故かすぐに睡魔に襲われそのまま深い眠りへと落ちた。
その次は、体を揺さぶられ目が覚めた。
猿轡だけが取り払われ、唯人に背中を支えられながら、彼がスプーンで掬った粥を、どうにか咀嚼 し嚥下 した。
それが終わるとストローを口に差し込まれ、スポーツドリンクみたいな物を、飲んだような記憶がある。
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