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第134話
そして、3回目。
「うっ……くぅっ」
この状況は何だろう?
「起きた?」
柔らかく響く唯人の声に、瞼をゆっくり開いていくと、大理石調の壁が目に映り、体がピリピリと痛みを帯びた。
「少し我慢しろ」
「……っ」
どうやら唯人は自分を風呂へと入れようとしているらしい。湯船へと入る瞬間は、まだ癒えぬ傷が痛んだけれど、浸かってしまえばそれは薄れ、体から少し力が抜けた。
「首、こっちに倒して口開けて」
背後から耳へ囁く声も、唯人の物で間違いないから、自分が背中を預けてる肌は彼の物に違いない。
「あっ」
ようやくそれを理解した暁は、体を僅かに硬くするが、目の前へと現れた手に顎を軽く持ち上げられ、「ほら、速く」と命じられては、従う事しか出来なかった。
「やりづらいな。暁、やっぱりこっちだ」
声と同時に体をたやすく持ち上げられ、反転させられ、向かい合わせに膝上へと乗り脚を開いた格好になる。
すると、たくましい彼の胸板が、すぐ目の前に見えたものだから、暁は視線のやり場に困り、斜め下へと目を伏せた。
「顔、真っ赤。暑い?」
至近距離から覗き込まれ、暁は左右へと首を振る。
すると、
「照れてるんだ」
と呟いた彼が、「上向いて、口開けて」と、頬を撫でながら告げてきた。
言われた通り上を向き、暁が小さく口を開くと、シャンプーなどが並ぶ台へと、腕を伸ばした唯人が何かを手に握る。
それが、歯ブラシであると気が付いたのは、口腔内へと先端が入る直前の事だった。
「……んっ」
「これで3回目なんだけど、覚えてる?」
歯を磨きながら唯人は言うが、生憎記憶に残っておらず、暁が視線を彷徨わせると、喉を鳴らして低く笑う。
「だろうな。最初は素直に口開けなくて、大変だった」
言われてみれば、朧げにだが覚えがあるような気がした。
「風呂も……入れようとしただけで、凄く抵抗するから、どこにそんな力があるのかって感心した。細くても男だな」
奥歯を磨き終えた歯ブラシが、前の方へと移動してくる。
そこから、丹念に時間をかけて前歯の裏側を磨き上げると、一旦口から歯ブラシを抜き、背後にあるタッチパネルを操作するのが視界に入った。
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