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第138話
『話が早いな。いいだろう、連れて帰れ。3日だけ待ってやるからその間に連絡しろ。撮影は終わりだ。エイジ、ソイツを離してやれや』
佐伯が一言命じると、カメラマンや照明係はすぐさま手を止め距離を置くけれど、背後から暁を抱いたエイジは憎々しげに舌打ちをした。
『アキ、約束忘れんなよ』
耳元で囁くエイジの声は、暁だけにしか聞こえない。
(約……束?)
『……んぁっ』
回らぬ頭でなんの事かと考えたところでペニスが抜かれ、その刺激にすら愉悦を覚えた体がピクピク痙攣した。
(あのあと……だ)
工藤が怪我を負ったのは。
足早に側へ駆け寄った彼が、暁の体をシーツへ包み、立ち上がりかけたその瞬間、突如動いたエイジが工藤を殴りつけ――。
『おいっ、何やってんだ!止めろ!』
体を襲った強い衝撃と、焦りを滲ませた佐伯の声。
一瞬のうちに身を翻した工藤が盾になったから、自分が殴られた訳ではないが、恐怖は臨界点に達した。
(逆らったら……殺される)
時間をかけ、暴力によって精神を支配されていた暁は、『ごめんなさい』を小さな声で呪文のように唱えるが、歯の音が合わずにガチガチと震え、声はほとんど音にならない。
『やっぱ返さねぇ』
『いっ、あ゛うぅっ!』
エイジの声が聞こえたと同時に、不自然な方向へと右手を強く引っ張られ、激痛に暁が悲鳴を上げると、すぐさま工藤がエイジを蹴った。
『いたい、いだ……い』
『すみません。少しだけ……我慢してください』
開放された右腕が、力なくダラリと垂れ下がる。
低く告げられた工藤の言葉に、返事すらできず悶えていると、彼は反撃に転じること無く暁を抱いたまま走りだす。
そして――。
『ふざけやがって……ぶっ殺す!』
『待て! エイジ! 止めろって言ってんのが……』
制止する佐伯の怒号を遮り、二回聞こえた発砲音。
『っ!』
刹那、自分を抱く工藤の眉間に深い皺が刻まれた。
(俺のせいだ。俺の……)
「……ちがう。暁のせいじゃない」
(でも、俺が、ちゃんと確認してれば)
「それでもいつかは起こった。狙われてるって分かってたのに、甘く見ていた俺のせいだ」
「んっ……うぅ……」
暁の思考を読んだかのような言葉を紡ぐ唯人の声。
次いで、唇へと触れる温もりに徐々に意識が浮かび上がる。
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