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第139話

「あっ……あ゛あっ!」  上手く感情を制御できずに大きな声が上がってしまうが、その都度顔のあちらこちらに優しいキスが降りてきた。 「……い、ゆいっ」 「いるよ。俺はここにいる」  目尻をざらりと舌が這う。もう一度名前を呼ぶと、「何?」と優しく返された。 「ゆい、俺……もう、必要……ない?」  常の暁では聞くことの出来ない質問がまず口をつく。それほどに、心も体も疲弊しきって混乱していた。 「そんなの、必要に決まってるだろ」  そっと髪の毛を梳いた指先が、首筋を撫でて耳朶を弄る。 「……工藤さん、怪我…させて……ごめん」 「それは、暁のせいじゃない」 「んぅっ」  耳へと指を挿しこまれ、暁があえかな声を漏らすと、喉仏へと触れた唇が、そこをチュッと吸い上げた。  そこから生まれた甘い疼きに、掌をギュッと握りしめれば、シーツの布地の感触がして、ここが風呂ではないと分かる。 「……ゆい」 「暁、俺が見える?」  ようやく開けた視界いっぱいに唯人の顔が映り込み、暁がコクリと頷き返せば、薄い唇の端だけを上げ、「良かった」と、微笑んだ。 「今度は気を失わなかった」 「え?」 「少しは良くなってるってこと。いろんな事があったから、感情が上手くコントロールしきれてないんだって……な、工藤」 「はい」  返事をする声の方へとゆっくり視線をあげていくと、横たわっている自分の体を包み込むように抱き締めている唯人の体の向こう側、ベッドの脇へと立つ工藤が見え、罪悪感に息が詰まった。 「っ!」 「白鳥君、落ち着いて。ゆっくり……息を吐いてください」  すると、いち速く暁の変化に気付いた工藤が手首を掴み上げ、いつもと同じ穏やかな口調と表情を向けて告げてくる。  その間、唯人は暁の薄い背中をトントンと軽く叩きながら、「大丈夫だ」と、耳の近くであやすように囁いた。  少しの時間そうしていると、速まっていた呼吸と鼓動が僅かながらに落ち着いてくる。

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