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第140話

「脈拍はだいぶ落ち着きました。あとは、十分な栄養と、休息を取らせてください。今、何か食べやすい物をお持ちしますので」 「頼む」 「……あ、くどう……さん」  頭を下げる工藤の姿に暁が思わず声を上げると、「分かってる」と告げてきた唯人が唇へキスを落としてきた。 「んっ……」  暁の声を封じるように、繰り返される軽い触れ合い。  自分から拒むこともできずに、何度もそれを受け入れるうち、ドアの開閉する音が聞こえ工藤の気配がなくなった。 「ん……ゆい、俺……」 「もう充分伝わってる。暁は意識が無かったけど、ここ何日か、パニックになるとずっと工藤に謝ってた。工藤は……表には出さないけど、暁を守れなかったことに責任を感じてる。だから、今は謝るより、工藤を心配させないようにちゃんと元気にならないと。そうしたら……」 『ありがとうって言ってやって』  まるで、内緒話のように囁かれ、暁は何度も頷き返す。  工藤に助け出された時の記憶はあらかた戻ったけれど、それから先、ここまでの記憶は途切れ途切れで曖昧だ。  だから……今、唯人から話を聞くまで、彼の立場や辛い気持ちに気づくことができなかった。 「暁も辛いのに、こんなこと言ってごめん」 「……そんなこと、無い。あとから…知った方が、辛いと思うから」  工藤は暁の警護をしていて、それが仕事だと言っていた。ならば、きっかけが暁の不注意とはいえ、謝罪されればされただけ、罪の意識を深めてしまうというのは暁にも理解できる。 「ありがとう」  静かに涙を流す目元を拭う唯人の長い指。  まだ不安定な状態の暁にそんな事を告げたのは、自分のことより他人を優先してしまう暁の性格上……そちらへ意識を向けさせた方が、正気を保てるとの判断だが、今の暁には見抜けない。 「あの、唯は……」 「ん?」 “もう怒ってはいないのか?”  そう聞きたくて口を開くけれど、どうしても……その先の言葉を紡ぎ出すことができなかった。

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