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第142話
夏からこちら、暁の環境は物々しさを増しているから、今日こうして食事をするのは、少しだけでも前の日常が戻ってみたいでとても嬉しい。
「ほら、白鳥君、どんどん食べて」
「あ……はい」
会話中、文字の書かれたノートを出され、困惑しながら小泉を見ると、指で読むよう促されたから視線を落として文字を追う。
“もしかして、盗聴されてる?”
そこには、整った綺麗な文字で、一言そう書かれていた。
“分からない。でも、大丈夫だと思う”
“根拠は?”
“本人が言ってました”
ペンを受け取りそう書き記すと、小泉がホッと息を吐き出す。
『楽しんできな。盗聴なんてしないから』
出掛けに唯人から告げられた言葉。
思いもよらなかっただけに、その時は、首を傾けた暁だけど――。
(そうか、あれは……)
小泉が危惧することを先読みしての言葉だったのだ。
「そう、本人が言うんじゃ疑うのは悪いね。変な事聞いてごめん」
「いえ、気にしないでください」
「それにしても……白鳥君の警護、凄すぎだよ。この店も、半分くらいそうなんじゃない?」
「え? そんなことは……無いと思います」
ここは、全ての席が個室タイプの、こじんまりとしたダイニングバーで、天井は全て筒抜けているが、仕切りはきちんとされているから、普通に話をしている限り、他所 の会話は聞こえてこない。
だから、どれほど客が居るのかも分からず、小泉の言葉の根拠がまるで思い付かなかった。
確かに夏以降……警備を増やすと言われてはいたが、紹介された訳ではないから、いつも側にいる工藤以外は誰なのかすら分からないが、そこまで多くは無いと思う。
「で、何があったの?」
トングでサラダを取り分けた彼が、皿をこちらに差し出してくる。
礼を告げながらそれを受け取り、自分の前へと置いた暁は、どうしようかと思案した後で小さく息を吐き出した。
「どうして、俺のことなんか……こんなに心配してくれるんですか?」
自分を卑下するつもりはないが、まだ長くはない人生の中で、ここまで親身に接してくれた友人など一人もいない。
(信用して……いいんだろうか?)
昔、小泉と唯人の間になにかあったのは間違いないが、それについては知らされてない。だが、友好的で無い事くらいは肌で感じ取っていた。
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