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第143話

 もしかしたら、小泉とその恋人の須賀は、唯人と敵対する関係で、暁から何か大事な情報を得ようとしているのかもしれない……などと、考えてはみたものの、ならば唯人が今日の食事を簡単に許すはずがない。 「何て言えばいいのかな……白鳥君を見てると、昔の自分を思い出すんだ。悠哉君には余計なお節介かもしれないって言われたけど、白鳥君、明らかにやつれたし、何か悩みがあっるならって思った。僕じゃ頼りないかもしれないし、見当違いだったらそれでいいんだけど、それでも、どうしても、黙ってられなかったんだ」  真摯に響く小泉の声に、胸がギュッと締め付けられた。  ゆっくりとした柔らかな声音と、こちらを見つめる大きな瞳に嘘は無いように思われる。 「俺は……」  食事に誘われた昨日の夜から、相談するか否かを暁はずっと考え続けていた。話すには……かなりの勇気が必要だから、尚更に。  これまで、誰にも心配をかけないよう、何があっても外には出さず、心の中に押し込めてきた。  だけど、心をグラスに例えるならば、すでに中身は満杯になっていて……ほんの一滴水を落とされれば、たちまち決壊するだろう。 「解決するとか、助けるとか、そんな……無責任な事は言えない。でも、僕に話すことで、楽になるかもしれないし、一緒に考えることもできる。だから……」  真剣に、丁寧に、言葉を選ぶ小泉の姿に、不思議なくらい簡単に……暁の心の揺れが止まった。 「……わかりました。俺、相談ってあんまりした事なくて、上手く話せるか分からないけど、聞いてもらってもいいですか?」 「もちろんいいよ。ゆっくりでいいから、白鳥君の思ってること、聞かせて」  ホッとしたように息を吐いた後、笑みを浮かべた小泉が言うが、その表情とは裏腹に……声は微かに震えている。 「はい。ありがとう……ございます」  頷いて、何から話せばいいか分からず俯いたまま考え込むと、そんな暁を急かすことなく、 「料理、冷めちゃうから、先に食べようか」 と、タイミング良く運ばれてきた料理を勧め、小泉が言った。

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