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第146話

『ねえ、白鳥君、少しの間うちに来ない? 離れてみたら、いろいろ見えるかもしれないよ。この場合……何かに気づくのは、きみじゃなくて唯の方だと思うけど』  真剣な彼の表情と、最近自分を取り巻いている閉塞感から逃げたいと思う気持ちから、つい頷いてしまいそうになるが、暁は申し出を断った。  最後の言葉が気になったけれど、それを尋ねる勇気もない。 『僕と唯は、初等部からずっと一緒だった。何でも出来る唯のことを、尊敬してた。でも、僕は……自分のことで精一杯で、唯の心を知ろうとしなかった。彼も、自分が本当にしたいことが分かってなかったんだと思う。でも、今ならきっと……』  彼らの間に何があったのかは結局聞けずじまいだったが、小泉が、自分と唯人を本気で心配している事は、肌と心に伝わった。 (俺は、これから……)  どう動けばいいのか分からず、暁は小さなため息を吐く。  ずっと……唯人に飽きられ捨てられるその瞬間までは、傍にいようと思っていた。  だけど。 『自分から捨てる事はしない』 と言った唯人の言葉の裏には、もしかしたら、唯人が暁に飽きた時には、暁が自ら去るように……との含みがあったのかもしれない。 「なあ、唯、俺は……」 “ただの代替品だったのか?” と、尋ねる勇気はありはしないし、自分が小泉の代わりだなんて、自惚(うぬぼ)れだとも思いはする。  だが、アルバイト先を勧めた理由が、小泉との接点を持つためだったとするならば、話の筋が通る気がした。 (ちゃんと、話そう)  怪我の責任を取ろうとしている唯人に一人で平気だと告げ、もし危険だと思うのならば、警護をつけてくれてもいいが、一緒に住むのは止めると言おう。 (とりあえず……)  唯人はまだ目を覚まさない。  風呂へと入り、それでも起きていないようならば、起こしてベッドへ移動するよう促そう……と、考えながら、暁は小さなため息を吐く。  ここ2ヶ月間、触れあうどころか一緒のベッドで眠ることも無くなっていた。 「明日……」  丁度明日は土曜日だから、切り出すにはいいタイミングだろう。  自分の思考がネガティブになっている自覚はあるけれど、どうしても良い方向へは考えられなくなっていた。

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