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第147話

 *** 「それは、自分のアパートに帰りたいってこと?」 「うん。いつまでも世話になってられないし、俺、もう平気だから」 「そう」  いつものように唯人と二人で朝食をとっている時に、勇気を出して切り出すと……割と普通に返されたから、肩の力は少し抜けたが、寂しいような気分になった。 「これ、美味しい」 「あ、キッシュが好きだって工藤さんが言ってたから。気に入ったなら良かった」 「気に入った。ホント、美味いよ」  笑みを浮かべる唇がやけに艶かしく見えるのは……昨晩彼の寝ている隙に、唇を重ねたからだろうか?  以前は工藤が毎回食事を部屋へと運んで来ていたが、最近は……朝食くらいは作ると言って、暁がキッチンに立っていた。 「ごちそうさま」  今日の朝食は、ベーコンとほうれん草のキッシュ、レタスとトマトを和えたサラダ。それに、全粒粉の食パンと、四等分に切ったオレンジを二切れ添えたワンプレートだが、「美味しい」と彼に言って貰えて、お世辞でも暁は嬉しかった。 「コーヒー、もう一杯飲む?」  食事と一緒に出したコーヒーが空になったのを見計らい、席を立ちながら暁が告げると、 「ありがとう」 と答えた唯人がカップをこちらに差し出してくる。  それを受け取ってキッチンへ入り、サーバーから注いでいると、立ち上がった唯人が食器をカウンターへと運んできた。 「唯、ありがとう」 「そっちは俺が運ぶよ」  皿を受け取りシンクへ置くと、淹れたばかりのコーヒーカップを指さしながら唯人が言う。 礼を告げながら差し出せば、暁の分も運ぶと言うから、そこは素直に手渡した。  ついでだからと言われてしまえば、遠慮していても仕方がない。 「運んでくれてありがとう」  汚れた皿を軽く洗って食洗機へとセットしてから、ダイニングテーブルへ戻り、暁がコーヒーを一口飲むと、 「で、いつ出て行くの?」 と聞かれたから、 「……今日にでも」 決意が揺らいでしまわぬように、考えていた答えを返した。

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