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第158話
「暁」
今は、綺麗に身体を拭った暁を、ベッドへ横たえ腕の中へと抱き込んでいるが、何度か名前を呼んでみてもそれに対する返事はない。
あれだけ激しく抱いたのだから、当然といえば当前だろうが――。
「話があるんだ」
語りかけるような唯人の声は柔らかく、そうすることで、暁を起こそうとしていないことは明白だ。
泣きはらした目尻を舐め、少し癖のある髪の毛を指で梳 きながら、どう話せば伝わるのかと暫し思考を巡らせる。
これまで……相手に何かを伝える時は、会話ではなく命令だった。
その要点を的確に、手短に話すことには馴れているのだが、自分の思いを理解して欲しいと考えたことは一度もない。
なぜなら……大抵の人間とは、見える世界が違っていると、幼い頃から解っていたから。
歩み寄る必要性など微塵も無いと思っていたから。
だから、自分の持つ容姿や富を最大限に利用して、思い通りの駒となるよう周りの人間を動かしてきた。
(でも、暁だけは……)
次に暁が目覚めた時、どんな反応を示すのかは分からない。これまでもずっとそうだったけれど、暁の反応は唯人の想像の範疇 をいつも超えていた。
「ホント……飽きない」
過去にもう一人、暁とよく似た行動をとる人物がいたのだが、今、唯人の心の中で、彼と暁とでは明らかに違う。
「……ん、んぅ」
一人思考を巡らせていると、悪い夢でも見ているのか……眉間に微かな皺を寄せ、暁が小さな呻きをあげた。
その顔色は青白く、呼吸もかなり苦しげに見える。
「……い、ゆ……い」
「ここにいる」
夢の中にあって尚、自分の名を呼ぶ暁の姿に唯人は昂りを覚えるが、今は少しでも落ち着かせようと薄い背中を撫で擦 り、息が苦しくならない程度にそっと体を抱き締めた。
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