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第161話

「だけど……ここまでのことされたら、普通の人間は逃げると思う。まあ、暁を逃がすつもりは無かったけど」  物騒な言葉を紡ぐ唇とは裏腹に……纏う空気が柔らかいから、怖いとは思わなかった。 「暁のこと、大学で偶然見かけて欲しいと思った。だから、調べさせたんだ」 「どうして……俺を?」 「前に言ったよな。昔飼ってた鳥に似てたから」 「それは……小泉さん?」 「ああ」  初めて告げられる真実は、想像していたことだったけれど、実際彼の口から聞くと、その衝撃はかなり大きい。 「そっか、やっぱり……」  自分と小泉は似ていない。  彼のほうが見た目も中身も秀でていると言いたかったが、それを告げたらもっと自分がみじめになってしまうのが分かる。  だから、言葉の途中で声を止めると、脚から指を離した唯人が暁の体へと覆い被さり、微笑みを浮かべ見下ろしてきた。 「暁のこういう、泣きそうなのに我慢してる顔……好き」  目尻へとキスを落とした唯人に、意味の分からないことを告げられ、顔を背けてしまいたくなるが、唯人が「聞いて」と見つめてくるから、そうすることも出来なくなる。 「俺は……これまでずっと、人を好きになるって感情が、どんなものか分からなかったし考えたこともなかった。好意を向けられるのには慣れてるけど、当たり前すぎて嬉しいとも思わなかった」  そこで言葉を切った唯人は、暁の右手を左の掌で包み込み、そのまま手を繋ぐ形で暁の隣へ仰向けになった。 「御園家の跡取りとして、成績も人格も申し分のない存在でいなければならない……って、ずっと言われてきたし、そういう教育も受けてきた。それに反感を持った事はない。恵まれた生を受けたんだ。それくらいのことは何でもないと思ってた。まあ、それも小学生の頃までだけど……」  嫌な事でも思い出したのか、繋がれた指に力が籠もる。暁にとっては初めて耳にする彼の生い立ちだったけれど、小学生の頃にはすでに、そんな考えを持っていたなんて正直とても驚いた。

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