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第164話

「なるほど、暁はそう思うんだ。俺は……相手を手中に収めるためには、心理的にも肉体的にも優位に立つことが大前提だと思ってる。都合のいい言葉を紡げば心なんて簡単に動くし、縛り付けて快感を与え続ければ、すぐに体は陥落(かんらく)する」 「そんな……」 「正確には思ってた……かな。今は、少しだけ違う」  返事も出来ずに息を詰めると、握った手を離した唯人が暁の髪の毛を指で梳く。 「高校時代、ゲームをした。俺は……時間をかけて、自分だけにしかなつかないように叶多を作ったつもりだった。けど、結果的に叶多は悠哉を選んで、俺はゲームに負けた」  言っていることの意味はほとんど暁には分からなかったけど、独白のような彼の呟きを遮るなんて出来なかった。だから、せめて、唯人が話をしやすいように、暁はコクリと頷き返す。 「悠哉の父親に協力して、父の手から叶多を助け出した時、汚されからいらないって思ったんだ。けど……渡した途端、惜しくなった。だからゲームを仕掛けた」  彼の話の断片を、頭の中で整理するうち、小泉を賭けて須賀悠哉とゲームをしたというのは分かった。  結果、小泉は悠哉を選んだ……と、いうことでいいのだろうか? 「俺は何度も叶多に好きだって言った。そうすれば、簡単に手に入ると思ってたから……だけど、それは違うって最後に言われた。その時少し考えて、何が違うのか理解したつもりになったけど、今思えば本当の意味じゃ分かってなかった。それからは何をしても心がぼんやりしてた。でも、暁と会ってから……」 「あっ……うぅっ」  唐突に……肩へと歯を立てられたから、痛みと驚きに目を見開くが、逃れようにも腰と頭を掴まれてしまい無理だった。 「……い、ゆい、いたいっ……ん、あっ」  痛みに体を捩りながらも抗議するように胸板を押すと、一旦口を離した唯人が、噛んだところを舐めるから……そこから生まれる甘い疼きに、体中へと鳥肌がたつ。 「最初は……俺の言動に一喜一憂してる暁を見て、楽しめそうだと思っただけだった。叶多の代わりになればいいと」 「……」  噛み痕を指でなぞりながら、尚も叶多の話を続ける唯人に、痛みを理由に泣いてしまいたい衝動に強く駆られるが……最後まで話を聞きたい思いが暁に涙を(こら)えさせた。

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