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第165話

 なにせ、唯人の心を知りたいと……長い時間、願っていたのは他でもない暁自身なのだ。 「叶多と悠哉にはち合わせた日があっただろう? あの時、暁が気を失ってから叶多に言われた。俺は何も変わってない……同じ過ちを犯すつもりかって。でも、その時も意味が分からなかった。俺の物になるって決めたのは暁だから、叶多の時とは違うと思った」 「そうだろ?」と、尋ねられ、頷きながら「うん」と答えると、唯人がクスリと笑う声がして喉あたりを軽く吸われた。 「んっ」 「暁はホント……なんでも(ゆる)すよな」 「なんでもって訳じゃない。でも、唯が望んで、俺にできることなら、なんでも叶えたいって思うよ。死ねとか……そういうのは無理だけど」 「そんなこと言わない。だけど、そんなに甘いとつけあがるよ」  それでもいいと暁は思う。  もしかしたら、唯人はこれまで誰にも甘えることが出来ずにいたのではないか?  だから、他人を試すような事をして、気持ちを測っているのではないか? 「いいよ」  唯人の背中へ手を回し、抱き締めながら暁が答えると、顔を上げた彼の瞳が至近距離から見つめてきた。 「少し、分かった気がする。俺も悠哉も叶多を無理矢理犯したのに、どうして叶多が悠哉を選んだか……」  そんな事までしたのか……と、声を上げたい気持ちなるが、衝撃があまりに強すぎて思うように声が出せない。 (やっぱり、今でも唯は……) 「俺が、怖い?」  犯罪としか言いようのない話だが、唯人を非難することよりも、彼がそれだけ叶多に執着していた事実が暁の心中を苦しくさせた。 「怖くない。だけど、唯が小泉さんの話すると……胸が痛い。でも、聞きたくないわけじゃない。俺は唯を……知りたいから」  素直に気持ちを言葉にすれば、 「他人を道具にするような、酷い人間なのに?」 と真面目な顔で聞いてくるから、自虐ともとれるその発言に、内心かなり驚いたけれど、暁ははっきりと頷き返す。 「小泉さんには、唯を糾弾(きゅうだん)する資格があると思う。だけど、俺にはないから……それに、俺にとっては唯が一番大切だから、だから……俺は……」 (道具でも……いい)  自分と知り合う随分前から、唯人が心に秘めていた闇を、ほんの少しだけ見た気がして……我慢しようとしていた涙が嗚咽と共にこぼれ落ちた。  やはり唯人は、彼自身が思うよりずっと小泉の事を愛している。  だから前へと進めずに……似たようなものでごまかしている。 「違う、暁。それは違う」  暁の変化に気付いた唯人が目尻のあたりへ舌を這わせ、まるで心を読んだかのように囁きかけてくるくれど……涙腺が壊れたみたいに涙は次々溢れだし、暁自身の意志ではもう……止めることができなくなった。

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