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第166話

 *** (うまくいかない) 「んっ……うぅ…ん」  薄く開かれた口腔内へと舌を挿し入れて歯列をなぞり、それから舌をゆっくり絡めて、その感触を味わうと……暁は苦しげに眉を寄せながら、それでも唯人に応えようとして拙く舌を吸ってきた。  そんな健気な暁の姿に、抱き潰したいという衝動が心の底から涌いてくる。  泣き止ませようとしただけなのに、どうやら逆効果だったらしい。 「参ったな」  唇を離し本音を漏らすと、また誤解を生んだらしく、色づいていた暁の顔が一瞬にして青ざめた。 「ちがう、そうじゃない」  なるべく優しく囁きかけ、何度かキスを顔へと落とすが、彼の涙は止まらない。  いままで……暁の意志を尊重しているふりをしながらも、自分の思い通りに動くよう選択肢を狭めてきた。  今も、暁の考えは手に取るように分かるのだが、これまでと違い、どうすれば彼が泣きやむのかが分からない。  それに――。 「……どうしてかな」  自分の為に涙を流し、震える暁の姿を見ていると、悦びにも似た強い感情が心の中を満たしていく。 「暁は……俺のだろう?」  細身の体を抱き寄せながら、耳元へ低く囁きかけると、微かに頷く気配がするが、言いたいのはそれだけではなかった。 「好きだ」  伝える手段が浮かばないから、これまで何度も唇に乗せた言葉を紡いでみるけれど……これでは真意が伝わらないのも分かっているからもどかしい。

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