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第167話

「きっと、俺は……はじめから暁を好きになってた。そうじゃなければ、印なんて刻まない」  他の男に犯されている暁の画像を目にした時、はっきりとそう自覚した。  クスリで乱れ、卑猥な言葉を紡ぎ続ける姿を見ても、どうしても「要らない」などとは思えなかった。  むしろ、こんな事になるくらいならば自由になどさせないで、完全に閉じこめておけば良かったとさえ思ったのだ。 「……そ、そんな……ない」 「なに?」  腕の中から聞こえた声に、優しい声音で返事をし、のぞき込むように顔を見ると、嗚咽混じりのか細い声で途切れ途切れに話し始める。 「しるし……自分の持ち物につけるって……それに、小泉さんにも……」 「ああ、大切なものに付けるけど、いつか捨てるものには付けない。叶多への思いは、所有欲だと思ってたけど、今考えるとたぶん好きだったんだと思う。暁だって、好きな相手はいただろ?」  それと同じだと唯人が告げると、何か言いたげにこちらを見上げ、「でも……」と反論しかけて言葉を飲み込んだから、「でも、何?」と殊更(ことさら)優しく話の続きを(うなが)した。 「唯は今でも……小泉さんが好きだから、俺とは違う」 「どうしてそう思う?」 「だって、唯、小泉さんに会いたくて、俺にバイト先、紹介したろ。それに……小泉さんの話ばかり……」  唯人が過去を語る上で、叶多の話が多くなるのは仕方がないと分かってはいるが、それでも辛いと話す暁に、ある感情がこみ上げてくる。  出会ってからこれまでの間、暁が自らの考えを示し、唯人の意志に背いたのは、今回『出て行く』と言い出したのが初めてのことだった。 さらに、暁が感情をぶつけてきたのも、今のやりとりが初めてだ。  唯人を知りたいと言いながら、叶多の話を聞けば辛いと訴えてくる暁の矛盾が、どちらも本音と分かるから……その狭間で悩む姿が愛おしくてたまらない。

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