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第168話

「ごめん、俺……めんどくさいこと言ってる」 「そんなことない。嫉妬してる暁も可愛いよ」  暁が自己嫌悪へと陥る前に、伝えなければと唯人は思った。だから、指先で暁の涙を拭い、もう一度彼へ覆い被さる。  ベッドがキシリと音を立てた。  驚いたようにこちら見上げた暁の涙を指で拭うが、小さな嗚咽は止まない。 「俺は、暁が好きだ。たとえ暁が信じなくても……暁が俺を好きでいる限り、手離すつもりはない」  我ながら傲慢(ごうまん)な発言だと自嘲(じちょう)するが、自分を慕う目の前の男をこれほどまでに臆病にさせ、追いつめたのは唯人だから、今度は自分が本音を彼に伝える番だと考えた。 「暁が気持ちを話してくれて、嬉しいと思う。今までは俺に気を使って、言いたいことも言わなかったろ? そう仕向けたのは俺だけど、暁の本音を聞いて……間違えてたって気づいた。他人の感情はコントロールできるって思ってたけど、それは違った。何をしても暁は俺から離れないって(おご)りがあったんだ」  そこまで一気に話たところで、唯人は暁の涙が止んでいることに気がついた。  驚いたように瞳を見張り、こちらをまっすぐ見上げている。 「暁が思うよりずっと、俺は、自分でも驚くほどに……暁を必要としてる。今はまだ、信じなくていい。これからすこしずつ、分からせるから……」 『だから、離れるな』と、唇同士が触れそうな距離で唯人が甘く囁くと、震えながらも伸ばされた腕が、遠慮気味だがしっかりと、唯人の言葉に応えるように背中をキュッと抱きしめた。 伍 終わり

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