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第169話

【陸】 「ただいま」 「おかえり。今日は楽しかった?」 「うん、凄く楽しかった。唯は? 早かったみたいだけど、上手くいった?」  マンションへと帰宅した暁がリビングの扉を開くと、丁度唯人はバスルームへと入りかけたところだった。  足を止め、手招きをする唯人の傍へと歩み寄り、体を屈めた彼のキスをいつものように受け止める。 「顔、真っ赤」  一緒に暮らし初めてそろそろ半年程が経過するが、恋人同士のような触れ合いに暁が慣れることはなかった。 「上手くいった。これで当分呼ばれないと思う」 「よかった。唯なら心配ないのは分かってるけど……大きな商談だって聞いたから」  ホッと息を吐き出しながら、笑顔を向けて伝えると、「ありがとう」と、微笑んだ彼が暁の洋服を脱がせ始める。 「あ……唯」 「一緒に入るだろ」  そう誘われれば、断る理由は暁にない。  最近はすれ違いが多く、なかなか時間が合わなかったから、羞恥心はもちろんあるが、それ以上に嬉しかった。 「俺も……やる」  されるばかりはもう嫌だから、暁も唯人のシャツのボタンへと指をかける。  指先が(かす)かに震えてしまうが、それでもどうにか全て外すと、悪戯(いたずら)っぽい笑みを浮かべ、「下は?」と唯人が尋ねてきた。  手間取っている間に暁は、すでに裸に剥かれていたから、慌ててベルトを外そうとすると、喉を鳴らして笑った唯人が暁の掌を掴んでくる。 「嘘だよ。もういい、先に入ってな」  額へと軽く唇が触れ、顔へと熱が集まった。 恥ずかしさも臨界点に達してしまった暁だから、彼の申し出に頷き返すと、逃げるようにバスルームへと移動する。  先に体を流して湯船に入ると、少ししてから唯人が来たが、視線のやり場に困った暁は、いつものように(うつむ)いた。 「おいで」  そんな暁へと唯人が声をかけるのも、一緒に風呂へと入るときには恒例となったやりとりだが、先の事を考えるだけで、条件反射のように疼く淫らな体が恨めしい。

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