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第172話

 それに――。 「きもちいい?」  尋ねてくる唯人の声に、怒気は含まれていなかった。 「きもち……いい…から、目、外して」 「ダメ。今日は暁を追い詰めたい気分だから」 「ひっ、アァッ!」  唐突に、唯人の指がアナルの中へと挿入され、愉悦に悲鳴を上げた暁は、とうとう床へと崩れ落ちた。 「腰が抜けた? でも、ここも良く洗わないと」 「ふっ……くぅっ……」  更に増やされた指でグチュグチュとアナルの中をかき回され、前立腺を強く押されれば、たまらず空で達してしまう。 「アッ……アアッ! も…いくっ、いきたい」 「もうおねだり? でも今日はダメ。ようやく全部終わったから、とことん付き合ってもらう」 「ひっ……やぁっ!」  倒れた体を仰向けに返され、ちぎれるのではないかと思うほど強く乳首を捻られて、たまらず悲鳴が咽をついた。  痛みに思わず腕を振り上げ、押しのけようとするけれど……肌へと指が触れたところで、 「暁は本当に止めて欲しい?」 と訊かれれば、それ以上の抵抗などできない。 「止め……ないで」  思っていたより心許ない声がでた。 「好きだよ」  頭を撫でられキスをされれば、心はすぐに満たされる。唯人が満足してくれるなら、それだけで暁も幸せだった。 「でも、なにが終わったか……知りたい」 「もう、あのジジイの言いなりにならくて済むってこと」  以前の暁なら理由など……聞くことができなかったけれど、今は随分違っている。  疑問に思えばどんな事でも直接聞こうと心に決め、少しずつだがそれを実践していこうと思っていた。 「それって……」  唯人の放った言葉から、意味を瞬時に読みとった暁は、息を詰まらせ、見えない唯人へゆっくり両手を伸ばしていく。 「だから、もう何も心配しなくていい」  その掌を掴んだ唯人が告げた言葉は短かったが、そこに滲む安堵の色を暁は決して聞き逃さなかった。 「あっ……あ、あうっ!」  手首を頭上に縫い止められ、ゆっくりと、長大なペニスが暁の後孔へ入ってくる。  何度受け入れてもその瞬間、アナルの縁はピリピリと痛み、僅かな吐き気を伴うけれど、待ちわびていた彼の熱に……暁は体を戦慄かせた。 (全部知ってる、知ってるから……)  直接聞いてはいなかったけれど、唯人が突然祖父の手伝いをせざるを得なくなった理由を知っている。 (俺の、ためだ)  数ヶ月前に撮影された淫らな映像を揉み消すため、唯人が彼の祖父から力を借りることになったという話は、樹から聞いて初めて知った。  樹は、AVの撮影も終盤へと差し掛かった頃、人目を盗んで部屋を飛び出しそれを工藤が捕まえたらしい。  飛び出した理由は分からない。  良心の呵責に耐えきれなったのか? はたまた、恐怖が理性を上回ったのか?  どちらにせよ、そんな彼の行動が、暁の救出に結びついたと工藤から教えられていたが、その後は行方をくらましていて、どこにいるのかは分からないとも聞いていた。

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