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第173話
そんな彼が、暁の前へと姿を見せたのは、2ヶ月ほど前だっただろうか。
『お前のせいで計算が狂った。御園の会長が動いたおかげで映像が売れなくなったから、代わりに俺を出演させるって……逃げたけど、追われてる。なあ、暁、お前のせいなんだから、何とかしてくれよ! このままじゃ俺、お前みたいに……う゛ぅっ!』
唯人のいない学校帰り、突如目の前に現れた樹に唖然とした暁だったけれど、前へ出た工藤が一撃で樹を地面へ叩きつけたとき、ようやく状況を理解した暁の体はガタガタと震えだした。
『見逃す代わりに二度と顔を見せない約束だったはずです。謝罪するならば様子を見ようと思いましたが……どこまでもクズですね』
『……まえの、お前のせいだ』
工藤の言葉が聞こえないのか、蹲ったまま何度か咳き込み、呪詛のように『お前のせいだ』と繰り返している樹の姿に、高校時代の面影はない。
自分を陥れた樹を許せるか? と問われれば、間違いなく答えはノーだが、だからといって憎いというわけではなく、今の彼の姿はただ哀れにしか見えなかった。
『行きましょう』
かける言葉も見つからないまま暁が樹を見下ろしていると、労るように背中へ触れた工藤が小さく告げてくる。同時に警察官が数名こちらへ歩いてくるのが見えた。
『あれは……』
『呼ばせました。職質から任意同行になるはずです。なにせ彼には余罪がある。未成年なので公開捜査は行われていませんが……ヤクザに差し出すよりは良心的かと』
野次馬の人だかりを避けながら答えた工藤が、『怖い思いをさせてしまって、申し訳ありません』と、謝罪してくるけれど、事態がうまく飲み込めない。
『あの、さっき樹が言ってたことって――』
震える脚をなんとか動かし、人混みを抜けて少し歩くと、以前工藤と入ったことのあるカフェが先に見えてきた。
『顔色が悪い。少し休んでいきましょう』
心配そうな表情をした工藤に促され入ったそこで、彼から全てを聞いた暁は、何も言わない唯人の優しさに涙を流すことになる。
本人が話さないことを、他人に聞くのはいけないことだと百も承知していたが、それでも……工藤の話が終わった時、聞いて良かったと心の底から暁は思った。
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