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第182話
***
「じゃあ、俺はここで失礼します。ご飯、ごちそうさまでした」
空港から都内へと出て少し遅めの昼食をとり、店を出たときにはすでに三時を回ってしまっていた。
「まだいいじゃないか。酒も飲める年なんだろう? 夜まで付き合えよ」
睦月はすっかり唯人のことを気に入ってしまったようで、なんなら朝まで飲み明かそうと誘うけれど、
「俺もそうさせて頂きたいのですが、今日は夜、予定が入っているので……次回お越しになったときには是非ご一緒させてください」
と残念そうに唯人が答える。
「予定があるなら仕方ないな。じゃあ、今度北海道にも遊びに来いよ。とびきり旨いの食わせてやるから。あと……」
急に声をひそめた睦月がガッチリ唯人の掌を握り、人好きのするいつもの笑顔で「暁をよろしく」などと言うものだから、目の奥がツンと痛くなった。
さっき空港で、暁と唯人が付き合っていると知った睦月は、満面の笑みを浮かべて『良かったな』と言ってくれた。
もちろん、感激屋の睦月がそれで話を終えるはずもなく、
『それにしても、どえらいイケメンだなぁ。前に好きだって言ってた奴だろ? お前、やるときはやるもんな……いやあ、よかった、本当によかった』
と、言わなくても良いことまでを興奮気味に話すから、落ち着ける場所に移動してから話をしようと懇願し、ようやくここまで連れてきたのだ。
「はい。大切にします」
淀みなく答える唯人の声に、胸の中が一杯になる。
「それでは、明後日空港で」
帰る睦月を見送る時も、唯人は一緒に来ると言っていた。
今回暁は睦月とホテルへ泊まる予定になっているから、
「明後日、空港着いたら連絡する」
と、唯人に近づき伝えると、
「分かった」
応じた唯人がふいに唇を耳へと寄せきて、
「帰ったら、お仕置きな」
と、艶を含んだ声で囁く。
「え?」
「楽しんで来いよ」
聞き返す隙も与えてくれず唇に笑みを浮かべた唯人は、睦月に頭を軽く下げてから手を振りその場を立ち去った。
残された暁は自分の鼓動が速くなるのを自覚するが、それは決して以前のような、不安を含んだものではない。
「いい奴……みたいだな」
声を掛けてくる睦月へと、暁が大きく頷き返せば、大きな掌で肩をポンポンと叩かれた。
思わぬ展開だったけれども、睦月に唯人を恋人として紹介できたことが嬉しい。
「よかったな」
しみじみとした口調で言われ、暁が素直に「うん」と答えれば、
「唯人君には振られたから、朝までのろけを聞かせて貰うぞ」
と、冗談っぽく笑った睦月に髪をグシャリと撫でられた。
それからの2日間は、あっという間に過ぎ去って――。
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