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第184話

「ここにも、印、つけていい?」  ぽってりと腫れた胸の尖りを指で揉みながら囁けば……頬を薄紅に染め上げながら「いいよ」と小さく返事をした。  その表情は恍惚(こうこつ)として、以前のような怯えた様子はまるでない。 「ホントにいいの?」 「うん、本当に嫌なら言う。今はそれが出きるから……だから……」 『安心して』  そう続くはずの彼の言葉を、吸い込むように唇を重ねた。  様々なことを無理強いをしている自覚はある。  暁に対する独占欲は日を重ねるごとに強くなり、悪いことだとは思っていないが、唯人は時折言いようのない後ろめたさを感じていた。  そんな些細な唯人の変化を、読みとった上で安心させようとする暁がいじらしい。 「愛してる」  窒息させる寸前で、唇を離し低く告げれば、 「俺も……大好き」 浅い息を繰り返しながら、必死と言った様子で応えた暁が背中へと腕を回してきて――。 「俺は、小鳥じゃない。だから、籠が無くても、ここに……ずっと……いる」  喘ぐように紡がれた言葉に、唯人の心は打ち震える。  どうして暁には唯人の欲しい言葉が分かってしまうのだろう? 「ゆいが、好きだから」 「……知ってる」  ポーカーフェイスを保とうとしたが見事に声は掠れてしまい、なぜか歪んだ世界の中、泣き笑いの表情をした暁の顔が近づいてくる。 「あいしてる」  その唇が、遠慮がちに自分のそれへと触れた刹那、温かい感情が――湧き水のように心を満たし、たゆたっていた仄暗い闇へと陽が射し込んだような気がした。 【完】 ありがとうございました。 

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