184 / 188

番外編1

「あーき、起きて」 「ん……んぅ」  瞼へとチュッとキスが落とされて体を軽く揺さぶられる。さっき眠りへとついたばかりの気がするが、もう朝がきてしまったのだろうか? 「……何時?」 「5時」 「そう……わかった。いま、起きる……から」  昨日の夜、久しぶりに唯人に抱かれていた暁は、愉悦の波に飲み込まれながら、深い海へと沈むように途中で意識を手放した。最後に時計を見たのが深夜の2時を回った時刻だったから、眠りについた時にはきっと3時を過ぎていただろう。    だから、体は鉛のように重たく、開こうとしても瞼は動かず、側にある彼の温もりに……甘えるようにすり寄りながら、暁はそのままもう一度、深い眠りに落ちてしまった。    ***   「おはよう。暁」 「……あ、唯……おはよう」  目を覚ますと、視界一杯に端正な顔が逆さに映る。その表情が、悪戯っぽい笑みを浮かべていることに、気づく間もなくキスが落とされそれを素直に受け入れながら、ようやく暁は夢の世界から現実へと意識を戻した。  そして、彼の背後に見える天井が、住んでいる部屋と異なることに気がついて「え?」と小さな声を上げる。 「ここ……どこ?」 「どこだと思う?」  質問を質問で返されて、暁はゆるゆると首を振った。  きっと、眠っている間に移動したのだろう。ならば、家からそう遠くはないのだろうけれど、視線を動かし辺りを見ても全く覚えのない場所だ。 「どこって言われても……」  白を基調にデザインされているマンションとは異なって、床も壁も天井までもが温かみのある木材で統一されている部屋は、壁の一面のみがガラス張りになっている。  寝かされているシルバーグレイのソファーは革製ではないが、ベルベットのような材質で肌触りがとてもいいから、これもきっと高級なのだろうなどと、理解しがたい状況の中、混乱した暁の脳内は現実逃避を勝手に始めた。

ともだちにシェアしよう!