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番外編1
「あーき、起きて」
「ん……んぅ」
瞼へとチュッとキスが落とされて体を軽く揺さぶられる。さっき眠りへとついたばかりの気がするが、もう朝がきてしまったのだろうか?
「……何時?」
「5時」
「そう……わかった。いま、起きる……から」
昨日の夜、久しぶりに唯人に抱かれていた暁は、愉悦の波に飲み込まれながら、深い海へと沈むように途中で意識を手放した。最後に時計を見たのが深夜の2時を回った時刻だったから、眠りについた時にはきっと3時を過ぎていただろう。
だから、体は鉛のように重たく、開こうとしても瞼は動かず、側にある彼の温もりに……甘えるようにすり寄りながら、暁はそのままもう一度、深い眠りに落ちてしまった。
***
「おはよう。暁」
「……あ、唯……おはよう」
目を覚ますと、視界一杯に端正な顔が逆さに映る。その表情が、悪戯っぽい笑みを浮かべていることに、気づく間もなくキスが落とされそれを素直に受け入れながら、ようやく暁は夢の世界から現実へと意識を戻した。
そして、彼の背後に見える天井が、住んでいる部屋と異なることに気がついて「え?」と小さな声を上げる。
「ここ……どこ?」
「どこだと思う?」
質問を質問で返されて、暁はゆるゆると首を振った。
きっと、眠っている間に移動したのだろう。ならば、家からそう遠くはないのだろうけれど、視線を動かし辺りを見ても全く覚えのない場所だ。
「どこって言われても……」
白を基調にデザインされているマンションとは異なって、床も壁も天井までもが温かみのある木材で統一されている部屋は、壁の一面のみがガラス張りになっている。
寝かされているシルバーグレイのソファーは革製ではないが、ベルベットのような材質で肌触りがとてもいいから、これもきっと高級なのだろうなどと、理解しがたい状況の中、混乱した暁の脳内は現実逃避を勝手に始めた。
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