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第6話 この気持ちが答えだ。

「真咲君、待って!!」 振り返ると、優磨君が此方に向かって駆けてくるのが見えた。 「ど、どうしたの?」 「さっきくしゃみしてたろ? 巻いて帰って」 息を整えながら差し出されたのは、赤い色をした手編みのマフラー。手を伸ばすのを躊躇っていたら、優磨君が世話が焼けるなぁって顔をしながら首に巻いてくれた。 市販の機械で編んだものとは違い網目が少し緩く、肌触りもしっくりきた。母さんが編んでくれるものと良く似ている。  君は自分の事をお人好しじゃないって言ってたけれど、やっぱり優しい人だと思う。現にこうして、俺を心配して追いかけて来てくれたじゃないか。 「優磨君が風邪を引いちゃうよ」 「俺はダウンジャケットを持ってきてるから大丈夫。マフラーは明日返してくれれば良いよ」 「明日?」 「うん、明日。十三時にここで待ち合わせな」 「でも……」 「俺とはもう会いたくない? もし、本当にそう思っているなら、今すぐに返して」 本気だ。ここで返してしまったら、きっと二度と会ってはくれないだろう。彼にとってはその方が良いのかもしれない。俺みたいなネガティブな奴とは関わらない方が…… マフラーに手を掛けた瞬間、彼の瞳が揺れいでいるのに気付き決心が鈍る。 本当に返しても良いのか? この選択に俺は後悔しないのだろうか。自分自身に問い掛けてみた。 もう会えないなんて嫌だ。 君にまた会いたいんだ。 この気持ちが、きっと答えだ。 深呼吸を一つする。吃っても良い、上手く言えなくたって良いんだ。ちゃんと、言葉にして伝えよう。 「ま、また会いたいから、明日まで貸してくれる?」 「……」 返事がない……声が小さ過ぎて優磨君に届かなかったのかも。もう一度言った方が良いのかな。 「あの、明日……」 「うん!!」  頬に生暖かい雫が垂れた。 「どうして泣いているの?」 「どうしてかな……分からないや」  彼の両手の平が俺の頬を包む。 「くしゃみが出ていたし、風邪を引いたのかも。早く帰って暖まりなよ」  彼の言葉にまた一つ雫が垂れた。 「うん、そうする」 「じゃあ、明日な!!」 「うん、明日ね」 君が嬉しそうな笑顔を浮かべるから、堪えていた涙腺が緩んだ。  君が優しいから、また涙腺が緩んだ。       悲しいからじゃない。  嬉しくて緩んだんだ。  それを口に出せる程の勇気はまだない。だけど、ほんの少しだけ、自分が変われた気がした。

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