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第7話 彼の笑顔。
家に帰ってからも気分が落ちつかず、買い物のお釣りで手に入れたお菓子も手付かずのまま。クローゼットの扉を開けてありったけの服を出した。
明日はどの服を着ていこう。気合いを入れ過ぎたら引かれちゃうよな。でも、シンプル過ぎるのもなぁ。
皆んなデートの時はどんな格好をしてるんだろう。未経験の俺には見当も付かないや。
デート……いやいや、マフラーを返すだけだし、それに相手は俺と同じ男だし。
自分に言い訳をしながら、選ぶ事小一時間、散々悩んだ末に決めたのは、いつもと大差ない服だった。アニメばかり観ていないでファッションにも興味を持つべきだった、と今更ながら後悔する。
「まー君、ご飯の前にお風呂入っちゃってーー!!」
「分かったーー!!」
そうだ、今夜は早く寝よう。明日寝坊したら大変だ。
午後に待ち合わせだから焦る必要などないのに、気が急いていた。それが最悪な事態を招くとは知らずに。
風呂から出て、着替えを持ってくるのを忘れた事に気付いた俺は、テーピングをしないまま階段を上がり始めた。
最後の一段という時に、左足に再び痛みが走る。バランスが崩れ、慌てて手すりに掴まろうとしたが、風呂上りの濡れた手の平は乾ききっておらず、階下まで転がるように落ちていった。
母の叫び声を耳にしながら、薄れゆく意識の中で浮かんだのは、赤いマフラーを巻いた彼の笑顔だった。
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