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第8話 蘇った記憶。

 目が覚めて最初に見たものは、見慣れない真っ白な壁と天井に埋め込まれた四角い照明。  手の平に暖かなぬくもりを感じ視線を移すと母さんの驚いた顔が飛び込んできた。酷く慌てた様子でベッドの傍にあるボタンを押しているのは父さんだ。自分が置かれている状況が飲み込めず目を瞬く。 暫くして、白衣を着た中年の男性が入ってきた。母さんとその人が深刻な表情で話しているのを横で聞いていた俺は、自分が階段から落ちた後に数日間意識を失っていた事を知り愕然とする。 検査をした結果、左腕の骨折と転落前の数日間の記憶が喪失している事以外は、特に異常は見られないと診断された。記憶喪失も脳に損傷がみられない為、数週間もすれば思い出すだろうと言われ安堵した。 ※※※  二週間後、退院した俺は録画しておいたアニメを、リビングのソファーで横になりながら観ていた。 「まー君、明日から学校だから、今の内に準備をしておきなさいよ」 「んーー。この回を観終えたらするよ」 「全く、しょうがないわね」 母さんが呆れ顔で此方を見ていたが、気付かない振りをした。目が合ったら小言を言われるに決まっている。俺の大好きなキャラが登場する回なんだ。勉強の準備よりも優先しなきゃ。 「遂に登場!! 守護天……」  画面に映し出された守護天使を目にした途端、心臓をきゅっと掴まれたように胸が苦しくなった。彼は俺の大好きなキャラクターだから登場して嬉しい筈なのに。 「まー君が好きなキャラクターよね?」 「うん……」 何故だか分からないけれど、観ているのが辛くなりテレビのスイッチを切った。 「まだ、途中なのにお仕舞いにするの?」 「うん、明日の準備をしてくる」 「そう、奥の部屋に移してあるからね」 「分かった」 完治するまでは階段の上り下りが大変だからと、父さんが俺の私物を全部下の部屋に移してくれた。骨折したのは足じゃなくて、左腕なんだけどね。  部屋入ってすぐに、テーブルの上に置いてある菓子箱に目を留めた。  さっきまで観ていたアニメのコラボ菓子。自分では買った覚えがない。母さんが買ってくれたのかな?   菓子箱に手を伸ばす。ホログラムのカードは当たった試しがないから期待はしないでおこう。  トレーディングカードの封を歯で切り中身を取り出した。手にしているのは…… 「守護天使のカード」 急に激しい頭痛に襲われ、その場にしゃがみ込んだ。と同時に、抜け落ちていた記憶が走馬灯のように駆け巡ってくる。  池内優磨……赤い手編みのマフラー…… 十三時に待ち合……わせ……  そうだ、優磨君。彼と会う約束していたんだ。

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