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第11話 自分勝手で狡い奴。
「名前まだ聞いてなかったね。教えてくれる?」
「……清河……真咲です」
「俺は池内優磨。よろしくね」
「よろしく」
名前を告げても、優磨君は何の反応も示さなかった。たった一度逢っただけの相手。顔を覚えていなくても何ら不思議ではない。
その日から、彼が美術室に顔を出す日が増え一緒に帰るのが日課となった。皆が奇異の目を向けているのを肌で感じる。
「お前なんかが、どうして彼の隣にいるんだ?」
そう言われている気がした。
人気者の彼と冴えない俺では余りに不釣り合いだ。俺なんかが傍にいたら彼の迷惑になってしまう。
一歩後ろに下がると彼が歩調を合わせてくる。嬉しい反面、申し訳なく思う。
もう、一緒に帰るのは止めにしよう。そう言えば良い。こんな歪な友情が続く訳がないんだ。
「優磨君、あ、あのさ、もう一緒に…」
「今から真咲君の家に遊びに行っても良いかな?」
「へっ? ああ、うん……」
結局何も言えないまま、彼を家まで連れて来てしまった。
「ただいま」
「お帰りーー!あらっ、お友達も一緒?上がって上がって」
「お邪魔しまーーす!」
部屋に入った途端、彼が急に黙り込んだ。母さんの前では明るく振舞っていたけれど、来た事を後悔しているのかも。
「あの……」
「なんか良いね。真咲君、愛されてるんだね」
「へっ? 誰に? 何が?」
「真咲君が帰って来たらさ、お母さん嬉しそうに、お帰りーー!って言ってくれたでしょ? それって、当たり前のようでも本当は凄く幸せな事だよ。愛されてるって証拠!」
「そうかな……」
「そうだよ。俺にはただいまって言ってくれる人も、お帰りって言える人もいないからさ……」
「どうして?」
「んーー。うちの両親さ、二人共恋人がいるんだよね。一緒に暮らしてた時も家にはあまり帰って来なかったんだ。で、数ヶ月前、遂に離婚。何方と暮らすのもいやだったから、転入を期にマンションで一人暮らしさせてもらう事にしたってわけ」
目を細め少し寂し気に笑う彼に上手く言葉が紡げず、強く抱き締めた。
「ちょっとだけ、苦しいかな」
「あ、ごめん」
「ふふっ、大丈夫だよ。ありがと」
彼の頬に手を添え、今にも溢れ落ちそうな目尻の雫を親指でそっと拭った。必死で笑顔を保とうとする彼に愛しさが込み上がる。
君の事情を知ろうともせずに、自分とは違うからと勝手に線を引いてしまった。ずっと寂しい思いをしてきたであろう君を、あの日一人ぼっちにしてしまった。君に嫌われるのが怖くて、何も言えないまま今日まで来てしまった。
俺は自分勝手で狡い奴だ。
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