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第5話

 いみじくも一人、生を選んだ晃成は雪男(仮)として生きることとなった。  なぜ(仮)がついているのかは謎だ。ほんの少しだけ人間の血が残っているからと雪華は説明した。  2メートル近い長身で肩幅も広い晃成は確かに雪男らしくもある。真っ黒な剛毛はモサモサと伸び放題で顔を包んでしまい、前髪の間から見えるアーモンド形の目は力強い。腕も足もがっしりとし、猫背気味な身体は全体的にでかい。  両親から受け継がれた身体そのままで性能だけがバージョンアップした。  雪にも強いし生命力は人間のそれとは全然違うし脆くない。  ちょっとそこまで、が数十キロにも及べるのでどこにだって行ける。その力を使っての買い物途中で盗撮されてしまったのだった。  スウスウと気持ちよさそうな寝息を立てる雪華に視線を落とした。  冷酷な雪の王がなんの気まぐれか、こうやって人間もどきの暮らしをしている。美しさを放棄したように好き勝手に暮らす姿をお付きのものたちがみたらどれだけ嘆くだろう。  それにしても綺麗な顔だと見惚れていたら何かを察したのかモゾモゾと動き、うっすらと目を開けた。淡いブルーの瞳が晃成を捉える。  視線がかみ合ったままフワっと微笑んだ雪華は「おいで」と手招いた。 「もうすぐご飯にしますよ」  そばに寄りながら報告する。夕食のリクエストは鍋だった。雪の世界に暮らしながらコタツといい鍋と言い、なぜこんなに温かいものを欲するのか。聞いてみたら「あったかいって幸せでしょ」と当然のことのように答えた。溶けたりしないのか不安だったけど今のところなんともない。 「その前に他のもの食べるから」  スルリと腕でからめとられ引きずり込まれる。普通の成人男性よりはるかに大きい晃成にとってコタツは窮屈でしょうがないけど、誘う赤い舌先にはあらがえない。 「……んっ」  何百年と生き続けているくせに、雪華の声は甘く素直だ。  コタツからはみ出した体は冷たくて触れる場所全てがひんやりと陶器のように滑らかだ。

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