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第10話
「そろそろ城に戻られてはいかがですか? お遊びが過ぎるのでは」
虫けらを見るような視線を晃成に投げかけながら細は続ける。
「さすればあのような卑しいものたちに触れることなく過ごせますが」
細の小言に雪華はフンと鼻を鳴らす。
「そのうちな。今はこの暮らしが気に入っている。邪魔者は排除すればいいだけのこと」
それとも、と雪華は手を打った。
「こちらに誘い込んで殺してしまえばいいのか。たくさん死ねば怖がって近づかなくなるだろうし。ふむ、そっちのほうが簡単だな」
「御意」
恐ろしい提案に細は表情を崩さないまま頷いた。冷たさは眠るように命を奪う。あっけないほど簡単に。
雪華がやれと言えばまもなく実行されるだろう。
「反対です」
晃成は手を上げ、いくらなんでもやりすぎだと主張した。なすすべもなく目の前から奪われた命を思い出す。あんな虚しさはもう味わいたくない。
「あの程度じゃ殺す理由にもなりません」
「そうか? 邪魔なものは排除すれば心安いだろ?」
何が悪いのか本気でわからないと雪華は不思議そうに晃成を見た。この価値観は人間だけのものなのか? 伝わらないもどかしさに胸がしめつけられる。
普段の雪華のように穏やかに笑って「冗談だよ」と言ってくれればいいのに。
「どんな理由があっても生きているものを簡単に殺してはいけないんです」
見つめるブルーの瞳に光はなく、晃成の背を嫌な汗が流れていく。もともと人ではない雪華にとって命とはそこまで尊重されるものではないのかもしれない。
その手の中で凍え亡くなる生き物は無力で生きる価値のないものなのか。小さく儚い命。だけど何の気まぐれかこうして晃成を生かしている。優しさが一匙でもあればきっと届く。
「お願いします。今度から周りに気をつける。あんな風に撮られたりしないから、殺すのはやめてください」
雪華は何も言わずじっと晃成を見つめ続けた。ゆっくりと首を傾げ考え込むように黙った。やがて「わかった」と頷き、細に声をかけた。
「とりあえず保留にしておこう。結界を強くしておけ」
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