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違う

 幸せってなんなんだろう。  真綿に包まれるような柔らかな声。  フカフカの羽毛に囲まれたような温もり。  天使のような微笑み。 僕が味わうことがない、きっとこれから縁もない高貴なもの。 大金持ちだったあの家でさえ、与えてくれなかったのだから。    そう思っていたのに、最後の最後で見知らぬ青年が与えてくれた。  あんなに気持ちよくて  あんなに温かくて  あんなに優しいものだなんて 知ってしまったら、もっともっと欲しくなってしまうのは僕が持つ唯一の人間臭さなのだろうか。  ‘‘もう抑えきれない’’ ‘‘溢れ出しちゃうよ’’ ‘‘だってこの愛は’’ 幻想だとわかっていながら何度も見た夢をまた見る僕。 綺麗な星空の下、3人の誰かに愛を囁かれる。 ‘‘お願いだから、覚めないで’’ いつものようにお願いしたけど、覚めていくのがわかって諦めたんだ。  でも、いつもとは違うことが瞬時にわかった。 背中に感じたのはヒヤリとする冷たい壁ではなく、ムチムチした温かくて柔らかい何かだったから。 ‘‘僕は本当に楽園に来たの?’’ 望んでいた温もりを感じて心からも温かい気持ちが湧き上がってきて思わず微笑んだ。   しかし、その安心も束の間だった。  次に感じたのは  首の後ろから圧力とゴキュゴキュという音    お腹からは舌触りとペチャペチャという音。  生々しく、耳に飛び込んでくるんだ。  記憶の最後に見たピンクの彼とは飲み方が違うし、しかも2人同時に吸血されるなんてと理解したら、パニックになった。 ‘‘しっ、死んじゃう……’’ そう思った途端にクラクラしてきた僕。 首もお腹も動脈だから、ドクドクと拍動が大きく聞こえてきて、僕はますます焦る。 ‘‘早くどうにかしないと’’ 止むことのない痛みには諦めていたはずなのに、今回は行動を起こす気に何故かなった。 生きたいって初めて思ったんだ。 声を出そうとゆっくりと口を開き、空気を軽く吸ってすぐに勢いよく吐き出した。  「たす……アッ、アアッ!」 でも、発したのは叫び声ではなく、喘ぎ声だった。 覚めた身体は火照り、もっともっとと気持ちが駆り立てられる。 欲するのは助けではなく、気持ち良さへと変わっていく。

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