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夕馬と真昼

 「あっ、おきたぁ?」 薄目でお腹の方を見ると、大きいアーモンドの瞳でこっちを見ながら舌舐めずりをした後、大きい前歯を見せて笑う青年がいた。 前髪が長く、真ん中で左右に分けられた髪の色は明るい黄緑で染められている。 「だ、れ……?」 息絶え絶えでなんとか言葉を紡ぐと、頬を膨らませてブウって拗ねた声を出す緑髪の彼。 「ゆうちょ! まあにぃのことわすれたらあかんでしょ、めっ!!」 見事にひらがなで言われて、何故か怒られた僕は戸惑うしかない。 それに、ゆうちょってなんだろう?  「ひる、いきなり言われても戸惑うでございましょう。最初は夕馬(ゆうま)と呼んであげなきゃダメでございますよ」 いきなり落ち着いた声色が後ろから聞こえてきたから、びっくりして身体がビクンと震えた。 「あらあら、ごめんあそばせ。驚かせるつもりはなかったのでございますよ」 ふふっと慎ましく笑い、僕の頭を優しく撫でる感じから、目の前の青年より年上の男性だとわかった。 夕馬……なんかしっくりくる名前だ。 まるで今まで忘れていた名前だったかのように、僕は腑に落ち、頭と心にその名を刻む。    「朝日真昼(あさひまひる)、ゆうまはきょうから、ぼくぅのおとうとだからぁ、よろしくねぇ」 ニヒッと効果音が付きそうな笑顔を見せた緑髪の青年……真昼さんはお腹に噛み付き、また無我夢中でペチャペチャと血を舐め始めた。 灰色の袖なしのインナーを着た真昼さんは子どもみたいな口調に似合わない褐色の肌で、盛り上がった肩から腕の筋肉に細い筋が通っている。 背中はしなやかで、本当に吸血鬼なのかと疑ってしまいそうだ。  冷静に考えて、この人の弟……吸血鬼の弟が人間って不思議な感じがするけど。 ふとそう思っただけなのに、真昼さんは目だけをこっちに向けて、赤い舌で下から上にゆっくりと舐める。 ぺッ……チャッ! 「アアアッ!」 スイッチを入れられたように叫んだ声を聞いて、クククッと笑う小さい声と振動を感じた。

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