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極夜
「実は今、お昼なんだよ」
僕はびっくりして目を見開くと、ようちゃんはむふっと笑う。
「ここはゆーたんがいた所から8時間の時差があるから、寝過ぎではないよ」
あとはここ、今の時期は極夜だし……というようちゃんの言葉の意味がわからず、首を傾げた。
「太陽が沈むから日中でも薄暗いっていう現象のこと。冬至っていう日の前後2ヶ月に起こるんだ」
これから勉強しようねと優しく言ってくれるようちゃん。
僕のことを全然バカにしないんだ。
「でも気温はちょうどいいし、ルールもないし……自由な街なんだよ、文潟 は」
綺麗な微笑みを見せて僕を見るようちゃん。
君のおかげで僕は自由だよ
そう思って微笑み返した僕。
すると、君の白くて長い右手が僕の左頬を包む。
「俺は、ゆーたんとならなんでも出来る……君の過去を忘れさせるのは朝飯前さ」
ペットを愛でるように何度も頬を撫でると、左の目元に黒い盛り上がりが見え出した。
「出来たね、俺と同じもの……もっと好きになっちゃう」
ふふっと嬉しそうに笑ったようちゃんは僕の左頬にキスを落とした。
「これで朝日家の兄弟って誰にでもわかるようになったよ」
えくぼを見せて笑うようちゃんに言われて目元に触れると、しっかりとしたほくろが付いていた。
「にぃにぃ、すごいでしょ♪」
褒めて褒めて! と犬だったら目一杯尻尾を振るように身体を揺らすようちゃんに、弟の方が向いてる気がする僕。
でも、認められたように感じて嬉しい僕はようちゃんに抱きつく。
「ありがとう、ようちゃん」
誰かに見られてもいいから、僕からも愛を伝えたかったんだ。
「たくさんの愛を惜しみなくあげるからね」
ようちゃんは苦しくなるくらい強く抱きしめてくれた。
「君を殺さなくて良かった」
ポツリと呟くから、僕は出会った時を思い出す。
「朝日家はね、御前家に因縁があるんだ」
僕にしか聞こえないくらいのか細さで語り始めるようちゃん。
「ヤーにぃなんか御前の奴らにΩだってバカにされて、それに怒ったマーにぃが頭突きして頭に傷を作っちゃったんだ……でも、俺は悪魔の目があるから会わないようにトトとカカに止められててね」
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