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天使

 「初めはコスプレだと思うたのでございます」 夜彦と帰ってくると、真昼とようちゃんも合流して会議を始める。 文章部門の夜彦、イラスト部門の真昼、写真部門のようちゃんは僕をモデルにして作品を深めていく。 アイデアを出す時は夜彦の部屋、まとめたい時は真昼の部屋で開催される。 今は仮決めのページを読んでみて、確認しているんだ。 「しかし、白色の絹の衣は涙のようにほろほろと糸が解れ、剥き出しになった体躯には黒々とした痣がいくつも地獄の花のように咲いておりました」 ようちゃんに初めて出会った時のボロボロな僕の写真。 「散々に裂かれた大きい翼は諦めたようにぱたりと折り畳まれ、左には大きく切り刻まれた傷が赤く染まっていたのでごさいます」 それと真昼の絵がコラージュされて悲しいだけじゃない、目と心を惹く画になっている。 「私は滲む血を止めるためにしずしずと舐め始めたのでございます」 そこに夜彦の叙情的な文章が合うことによって、作品の良さが深まるんだ。  「彼に向けられた怒りを消すように」 暗い声色に穏やかな口調の夜彦。 「彼の痛みを抑えるように」 甲高い声色で抑揚を付けて語る真昼。 「もう、彼が苦しまぬように」 声を震わせながら目を閉じて言うようちゃん。 試し読みだってわかっているはずなのに、僕は胸を締め付けられた。 「良いと僕は思うよ、十分だから」 僕がきちんと言葉にすると、3人とも口角を上げてくれたんだ。  『あなたは天使ですか?』 『どっちかって言ったら、君の方が天使じゃないの?』 何気なく交わしたやり取りがこんな風になるとは思いもしなかった。 それにコスプレと入れた言葉の意味も今ならわかる。 あの日はハロウィンの日だったんだって。 だから、僕が目指していた明かりと音楽はハロウィンのイベントだったみたいなんだ。 そして、天使の姿の主人公はオレンジと黄色の光を身体に纏っている。 それは変身を遂げるオーラなんだってわかったんだ。 たった1つの絵、たった数行の文章であの日を塗り替えてくれた気がするのは僕だけなんだろうか。

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