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 きぃ…と、暫くして音がした。  始めて聞こえた音に侑紀は飛び起きる。 「っ!?」 「慌てるとか、しないの?」  飄々とした声に、ざわと全身に鳥肌が立つのを感じて侑紀は震えた。 「おま……汰紀(たいき)か?」  トントントンと、リズムよく木製の黒い階段を降りてくる。  線の細い顔、  薄い体、  記憶の中の弟より幾分大人びてはいたが、細い体付きは変わっていない。 「普通、取り乱すでしょ?」 「……」 「あと、前くらい隠そうよ」  格子の向こうに立つ汰紀に、侑紀はただ黙って視線を送る。  久し振りに見る弟だった。  侑紀が高校を卒業した時、汰紀はまだ中学生で… 「久し振りで分からない?」  わざとらしく広げられた手を視線で追う。  男にしては端整な顔は、侑紀を見下ろして微かに笑んでいるようだった。 「感動の再会じゃないか?何か言ってよ」 「…これはなんだ?」  ぐっと、紐で括られた腕を突き出す。 「括られた腕?」 「んな事は分かってるんだっ!!」  勢いに任せて畳を踏み鳴らしても、汰紀は表情を変えなかった。 「だって、そうでもしないと兄貴とじゃ力負けしちゃうからさ」  ひょろりとした体を自覚しているのか、汰紀は自分の体を撫で、中肉でしっかりと筋肉の付いた兄を見やる。

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