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 寒いとさえ思っていたこの空間に居る筈なのに、じっとりとした汗が鼻の先に玉を結び、掌が湿気る。 「………」  辛うじて分かる自分の体を見下ろし、ごくりと喉を鳴らした。  キィ…ン……  小さな耳鳴りが響く。 「くっ……」  震えた体を縮める。 「……こ、こんなの………暗いだけだろ…、っ 退屈なだけだって…」  呟いた声の弱々しさに気付かないように、侑紀は小さく歌い始めた。  カラオケで得意のものから始まり、レナが歌っていた女向けの歌も、うろ覚えながら呟く。  それも歌い終わると、サビだけを覚えている歌を歌い出した。  記憶を手繰る度に眉間に皺が寄るようになり、学校で習った歌も歌い終えてしまった。 「あ…、ぇ……と…」  震え出す前に次の言葉を言う。 「あ  雨にも、…ぇ風?にも……」  授業で暗記させられた一文。  記憶の奥の残滓。  言葉が途切れる度に、どうしようもないざわざわとした感覚が這い上がる。  どくん  ふと 自分の脈が、鼓膜を打った。 「…………そ、 だよな…」  無理矢理音を作らなくとも、自分の内から聞こえる音があるのだと思い至り、ふうと息を吐いた。  例えそれが強がりだとしても確かに続く音を覚えて、僅かに肩の力を抜く。  微かに余裕を持ったせいか、再び感じ始めた空腹に負けて横になる。  くる  内臓の立てる音が心地いいと、生まれて初めて思った侑紀は小さく苦笑した。

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