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激痛らしい激痛はなかったが、精神にのし掛かった苦痛に喘ぐ。
「 …ぃ、やだ……っ…」
生理的に流れ出した涙で頬を濡らしながら、不用意に動く事も出来ずに震え続ける。
「兄貴は、俺の物だよ」
小さな宣言が、侑紀の鼓膜を震わせた。
キシリ…と階段が軋む度に、侑紀は肩を跳ね上げて身構える。
緩い足取りで降りてくる汰紀が見えると、手を握り締めて震えを誤魔化そうとした。
「退屈してるの?」
「……」
相変わらず、格子内には何もなかった。
せめて本でもと言ってみたが、紙の中の人間に気を向けるからと拒否された。
「うろうろしてるのが見えたからさ」
「……覗き見趣味かよ」
「見ていたいだけだよ」
「……」
静脈を読み取らせ、鍵を開けて中へと入ってくる。
ひたりと畳の上を歩く汰紀から逃げるように身を縮めたが、それは細やか過ぎる抵抗だった。
「じゃあ、俺と遊ぶ?」
「…お前、そろそろ仕事じゃないのか?遅刻したら…」
「うん?いいよ、別に」
蚊でも払うかのように言い、侑紀の頬を挟んで仰向けにさせる。
「キスしていい?」
「変態野郎なんだから…仕事くらいしっかり行けっ……つ!」
ちゅう と唇を吸われて侑紀の体が戦慄き、すがるように汰紀の服に手が延びる。
馴染んだ順で耳朶を擽り、首筋を撫でられて腰が跳ねた。
「ぁ… ふぅ、んっ」
「心配しなくても、兄貴くらい養えるよ。それより犯らせてよ」
「───っ、サボりでクビになっても知らねぇからな。引き込もって、近所の人間に警察呼ばれりゃいいよな!」
押し倒されながらもそう返す侑紀に、思わずと言った微苦笑が落ちた。
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