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「どうしたの?」
「…別に………労を労ってやってるだけだ」
そう言って背中を緩く撫でてやると、汰紀は幼い子供のように笑って抱き締め返した。
「あんまり…さ。仲良くなかったけど、俺、兄貴の事…好きだよ」
染み入るような答えに、侑紀は一瞬言葉を詰まらせ、ぶるりと首を振る。
「オレは…すぐオレの物を欲しがるお前が嫌いだった」
そう言い捨ててそっぽを向くと、女顔を微笑ませた汰紀が耳元に口を近づけた。
口を開くと、微かに舌が耳朶を擽る。
「ふぅん」
「そのくせ、やるとすぐに飽きて放り出すんだ。まったく…」
「…そんなオレが嫌い、だった?」
「ああ!嫌いだったっ!」
突き放してそう言ったはずが、汰紀の機嫌の良さげな笑みは崩れない。
侑紀は首を傾げて…はっと口を押さえた。
「───今は?」
擽ったそうなはにかみ笑いから侑紀は顔を背け、膝を抱いて小さく踞る。
それを追いかけ、汰紀はその肩をつついた。
「ねぇ?今は?」
「────し、知るかよっ!!」
怒鳴り付けて立ち上がるも、狭い格子内ではどこに行くことも出来ず、侑紀は赤い格子にしがみつくようにして顔を伏せた。
「ねぇ?」
背後から柔らかな人の温もりが覆い被さる事に、侑紀は小さく口許を綻ばせる。
「…知らねぇよ……」
そう繰り返し、自分よりやや高い位置にある汰紀の目を見上げた。
狂気を孕みながらも愛しそうに見下ろす視線を受けたまま、侑紀は軽く背伸びをするようにしてその唇に口づけた。
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