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 乱暴に引き摺り下ろされ、体のあちこちからゴツンゴツンと打ち付ける音が響く。 「ぃ…────っ、ぅ…」  最後にバタンと床板の上に倒れ伏した瞬間、チカリと灯りが瞬いた。 「…………点いた、ね」  部屋を見渡しながら、こちらを見向きもせずに言う汰紀から逃れようと尻餅をつきながら後ずさった。  感情の消えた目が、ひやりとそんな侑紀を追い掛ける。 「どこに、行こうとしてたの?」 「…っ」  伸ばされた手が侑紀の髪を鷲掴み、ずるずると格子内へ引き摺って行く。  ぶちぶちと切れて鳴る髪の音と痛みに喚くが、汰紀の表情は変わらない。  どん…と突き飛ばされたのは慣れ親しんだ格子内で… 「ぁ……あ、ぁ…っ」 「逃げようと、した?」  傍らに座り、ひきつる兄の顔を覗いた。 「どうして?今は…嫌いじゃなくなったって、言ってたのに」  激情の欠片すら映さない平淡な目が射すくめる。 「…ぁ…あぁ、嫌いだったよ。今は…─────大っ嫌いだっ!!」  そう怒鳴り付けて間近にあった汰紀の横っ面に唾を吐き掛けた。 「………」  袖の裾でそれを拭い、汰紀は視線を下ろして拳を作る。 「…騙してた?」 「  はぁ?てめぇで勝手に勘違いしたんだろうが!!頭ん中めでてぇな!」 「そう…」  緩く呟かれた言葉。  侑紀は微かに揺れた汰紀の肩にすらびくりと震えていたが、それでも毅然と顔を上げて目に力を込めた。 「やっぱり、壊してしまわないと…ダメ?」  一種艶然とした笑みを見せて汰紀は立ち上がった。

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