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 猿轡に含み切れなかった唾液が頬を伝い始める。  胸の前できつく縛られた腕は、血が流れにくいのか紫色に変色し、人体にあるまじき冷たさになりかけていた。 「ん…ぐ……」  コンクリートブロックが投げ出された足の間に鎮座する。  膝下辺りに置かれたそれが何に使われるのか分からず、侑紀の震えは次第に増して行く。 「痛み止…打って上げたいけど、痛くないと反省しないでしょ?」 「ぅ…」  痛み止を使うと言う事は、それ相応の痛みを伴うナニかをされると言う事で…  今まで汰紀が行った、精神を追い詰めるような所業を思い出して侑紀は震え続けた。 「なんて映画だったっけ?兄貴は覚えてる?」  そう言いながら足の間のコンクリートブロックの位置を調節する。 「あの映画のオバサン、怖かったよね?」  猿轡のせいで言葉を返せずにいる侑紀に、にっこりと微笑む。 「一回で終わるように頑張るから」  そう言ってしゃがんで何かを持ち上げる気配がした。  仰向けに転がされたまま、侑紀は視線を汰紀の方へと向ける。 「っ!!」  鈍い色のそれは、光を反射してギラリと光る事は無かったが、逆にそれが存在感を際立たせ、侑紀は昔見た映画を思い出した。  監禁された小説家。  逃げようとした彼は足を… 「じゃあ、折るからね」  ハンマーで叩き折られた。

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