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「ん…」  まさか幼い頃に戦々恐々と見ていた映画の体験を自らがする事になるとは思う筈もなく。  ハンマーが振り上げられるシルエットを見上げて初めて悲鳴らしい物が迸った。 「んっ!!んんんんん─────!!」  振り上げた風圧でふわりと前髪が揺れる。  逸らさなければと思うはずなのに、視線はハンマーを追って上へと上がった。  ひゅう  渾身の力を込めて、ハンマーが振り下ろされた。  足にガーゼを当てれても、侑紀のしゃくりは止まらなかった。 「ひ…っ……っ…、ひっ……」  止まらない嗚咽に震える頬を、汰紀が擽る。 「懲りた?」  ガチガチと歯を鳴らしながら侑紀は頷き、汰紀の口付けを甘んじる素振りすらなく受け入れた。  けれど瞳は怯えきり、足の間の砕かれたコンクリートブロックを正視することが出来ない状態だった。  砕かれたのは…足の骨ではなく間に置かれたコンクリートブロックだったが、侑紀を怯えさせるには充分で… 「次はないよ?」  飛んだ破片で出来た傷の上に掌を乗せる。 「今度は、切り落とすからね?」  そして…と向う脛を舐めながら上目遣いに侑紀を見上げた。 「それをシチューにでもして食べよう」

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