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ブロック片を片付けた汰紀がやれやれと肩を回す。
そして震えたままの兄を見やって苦笑する。
「本当にすると思った?」
尋ねながら髪を指に絡ませるとそこに唇を落とした。
「父さんじゃないんだから、そんな事しないよ」
ふふ と無邪気に笑う汰紀の顔に、意味を掴み損ねた侑紀の視線が絡まる。
「…な、に?」
うまく理解出来なかった言葉が背筋を撫でて行くようで…
侑紀の震えに拍車がかかる。
「そんなに怖かった?それとも寒い?…ああ。じゃあ、一枚、服を上げる」
「ち、違…」
何気ない口調で言った先程の言葉を問い直そうとする侑紀を置いて、汰紀は足早に階上へと姿を消した。
いつの間にか、あれ程聞こえていた雷鳴は消え、わざとらしいまでの沈黙が落ちる。
その静けさに耐えられなくなり掛けた時、赤い服をもった汰紀が階段に姿を現した。
「本当は、体を隠して欲しくないんだけど」
風邪を引くのは良くないから と続け、座り込んだままの侑紀の頭の上でそれを広げた。
一瞬にして視界を覆い尽くした朱色と、燦然と咲き誇る花々に侑紀はくらりと目眩を起こす。
「綺麗だろう?」
頭から被せられたそれは、最初は冷たいと思ったが、あっと言う間に体温を吸って肌に馴染んだ。
触れた事のないそれを恐る恐る撫でる。
「母さんの振り袖だよ」
そう告げ、侑紀の肌と着物のコントラストを楽しむように目を細めた。
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