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第2話
目を開けると、知らない男の顔がすぐ近くにあって飛び起きた。
背の高い男が隣で寝ていて、頭の中はパニックなのにびっくりしすぎて動けなかった。
まだ寝ている男の顔をまじまじと見る。白い肌に切れ長の目、すっと通った鼻筋に薄い唇の端正な顔立ちだ。腰まである髪は白いのに、前髪に赤いメッシュが入っていて眉も赤い。
白い睫毛の目蓋がピクリと動いて、金色の目が覗く。シーツから鳥の足がはみ出てきて、ゆっくり上体を起こす。
まさかーーーーーー
「サフラン・・・?」
「・・・おはよう、バジル兄ちゃん」
ハスキーな声はサフランのものと違っていた。
でも、オレをそう呼ぶのはサフランだけだ。
「あれ?僕声が・・・うわっ、何これ、うわわ!」
長い手足をもつれさせ、ベッドから落ちた。
「いたいぃ・・・」
床に転がって唸っている。
大袈裟なヤツだな。デカい大人の姿だから余計にだ。あれ?でも、様子が変だ。
「いたい、バジル兄ちゃん、たすけて・・・」
苦しそうに顔を歪めて、背中を丸めている。そのまま起き上がる事もなく、小刻みに震える身体を縮こませる。なんとかしなきゃ。
オレは寝間着のまま慌ててジイさんを叩き起こしに行った。
いつもは滅多な事で驚かないマオリ爺さんも、変わり果てたサフランを見ると目玉をまん丸にしていた。
それから町医者のカモミール姐さんを呼びに行った。いつも爺さんに薬をくれる。サフランの事もよく知っていた。
「なんや、ただの成長痛やん」
カモミール姐さんはサフランを一目見て言った。
白衣を着ているけれど、下は豹柄の丈の短いワンピースに黒タイツと派手な顔立ちも相まって水商売の女みたいだ。でもいつも優しくて腕がいいから病院はそれなりに繁盛している。
サフランはベッドの上で身体を丸めて、まだグズグズ言っていた。布団で顔を隠す仕草はサフランのものなのに、大人の姿だから違和感が凄い。
「鳥の子らはな、第二次性徴が起こると姿を変えることが多いんや。そらヒヨコかていつかはニワトリになるしな。最近精通とか声変わりあった?」
サフランは顔を真っ赤にしていた。
そういやこの前起きたら下着を変えてたな。アレか。
カモミール姐さんは根本が茶色くなり始めた金髪をかきあげる。エルフ特有のとんがった耳が出てきた。
「でもこれはいっぺんに成長しすぎやな、一応診察したるわ」
耳に聴診器をつけて胸や背中に当てたり身体をあちこち触ったりしていた。
「うん、大丈夫そうやな。
しんどそうやから痛み止めだけ出しといたるわ」
オレも爺さんもほっとした。
でもサフランは不安げな表情をしていた。
キツい顔立ちの青年なのに、チビだった時の泣きそうな顔と重なる。
「・・・僕これからどうなるの?」
カモミール姐さんは柔らかく笑って、白と赤の髪をくしゃくしゃ撫でた。
「どうもならへん。身体のが先に大人になっただけや。めでたいこっちゃで。
せや、カッコいい服持ってきたるわ、爺さんやバジルのは入らへんやろ」
カモミール姐さんのこういう面倒見のいいところもみんなに信用されている理由だ。
「亡うなってもうた父ちゃんのやねんけど、処分に困っとったから丁度ええわ」
カモミール姐さんは一旦診療所に戻って行った。
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