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第5話

「ハア?!お前まだ13?マジで?!」 うちに帰る道すがら、サフランとオレが簡単に自己紹介をするとヴィーノが言った。 ヴィーノはCランクの剣士で、朴訥として口数の少ない相棒はアルゴというらしい。アルゴはBランクだと聞いて驚いた。強いはずだ。 ちなみにカモミール姐さんは店を出ると 「この子らに手ェ出したらシバくからな」 と言って、それからずっとオレ達の後ろについて睨みを利かせている。 「お前さあ、何食ったらそんなデカくなんだよ。オレよりタッパがあるじゃねえか」 「え、えっと・・・」 サフランはヴィーノよりガラが悪く見えるのにオドオドしている。オレの手をしっかり握って離さない。 「見掛け倒しかよ、やっぱり中身はガキだな」 「ヴィーノ、口が過ぎるぞ」 ヴィーノは黙る。アルゴがヴィーノの手綱を握っているみたいだ。 「気にするな、時には臆病になる事も冒険者に必要な資質だ」 アルゴの言葉に、オレもサフランも目を剥いた。 強くなきゃ無理だと思っていたから。 「・・・ホントに?」 サフランが尋ねると、アルゴは口元に笑みを浮かべる。 「ああ、危険を回避するには臆病になる事が大切なんだ。まあ、闇雲に怖がっていてもいけないがな」 難しくてよくわからない。でも、怖がりは悪い事じゃないんだって分かって目から鱗だった。 「・・・怖くならないようにするにはどうすればいいの?」 サフランが聞くと、アルゴは少し考えてから 「何が怖いのか、という事を見極めることだな。 そしてその対処法を考えるんだ」 「むずかしい・・・」 サフランは眉を下げる。 でも一生懸命考えているみたいで、何が怖いのかか、と小さく呟いていた。 「で、宿屋はどこだよ」 「あ、もう少し。ほら、あのイグアナの絵の看板が」 ヴィーノが手を前に出した。片手で通せんぼするみたいに。反対側の手は剣の柄にかけられている。 「あの店でいいんだな?」 店の明かりに照らされた顔は、真剣そのものだ。さっきまでの軽薄さなんて吹き飛んでいる。 オレは気圧されてしまって頷くことしかできなかった。 「3、4人ってとこか」 ヴィーノは少し首を傾ける。目線の先を追うと、宿屋の窓から爺ちゃんに客達が詰め寄っているのが見えた。オレが走り出そうとすると、アルゴが肩を掴んだ。背筋がぞっとした。オレが動いてもびくともしない。 「なあ、あの中に入って1番やべえのはどういう事だと思う?」 ヴィーノはサフランに言った。 サフランは何も言えずにオロオロしているだけだったけど、ヴィーノは続けた。 「見た感じ頭に血が昇っているだけみてえだが、待ち伏せ・・・は無さそうだな。罠も魔法陣も。飛び道具も持っていない。ってことは、怖いことなんて何もねえ」 サフランの金の目が見開かれる。ヴィーノは剣から手を離した。 「つまり、ぶちのめすだけで充分ってことだ」 ヴィーノはドアを勢いよく開けた。反動で直ぐひとりでにしまっていく。 その間に人数分の打撃音が響いて、次にドアが開いた時にはヴィーノが男達の首根っこを掴んでまとめて外に叩き出していた。 「オイ、エルフの姉ちゃん」 カモミール姐さんは呆気に取られていたけど、ハッと気を取り戻した。 「爺さんが一発貰っている。看てやってくんねえか」 姐さんは急いで中に入っていった。オレとサフランも続く。 マオリ爺さんは頬を青黒く腫らしていた。やっぱり仕事が上手く回らなくて、不満を募らせた客にやられたらしい。 「ジイちゃん、ごめん」 カモミール姐さんが頬を冷やす傍ら、サフランはグズグズ泣いていた。 「お前そのナリで泣くなよ気色悪りぃ」 正直少しだけヴィーノと同じように思ったけど、オレも泣きそうになっていたから何も言わなかった。 だって、せめてオレだけでも残っていたらって思ってしまう。 ジイさんは指文字でヴィーノに礼を言った。身体の構造上言葉が話せないのだ。 更に好きな部屋に泊まっていくといいと爺さんが言ったら、ヴィーノは嬉々として相部屋の鍵を持っていった。お盛んやなあってカモミール姐さんが呟いていたけど、何の事だかわからずサフランと首をかしげた。 カモミール姐さんは湿布薬を診療所まで取りに行ってくれて、すぐ疲れたーって欠伸しながら帰っていった。爺さんは深々と頭を下げていた。  オレ達もお礼を伝えたら   「また大人になったら飲みに行こ。今度はボディーガードしてや」 ってニッと歯を見せて笑ってた。

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