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第6話
風呂に入った後、寝間着に着替えてベッドに潜り込んだ。サフランの寝間着は無かったから、カモミール姐さんが持って来た服の中でもゆったりめの黒いシャツとズボンを着ていた。でも胸元が大きく開いた仕様で、白い肌やうっすらとついた胸筋や腹筋の凹凸がちらちら見えてしまい、なぜか目のやり場に困った。
しかもサフランはオレと一緒に寝たがった。
いつもとは逆で、オレが長身のサフランに抱き締められるようにして横になる。
目を閉じればサフランの甘い香りが鼻をくすぐって、ぽかぽか身体があったかくなってきた。
いつものサフランと寝ているみたいで、安心してうとうとしてくる。
「兄ちゃん、キスして」
ビックリして目が覚めた。
目を開けたら端正なサフランの顔がすぐ近くにあって、金色の目が真っ直ぐオレを見ていて心臓がバクバクし始めた。
なんで今そんな事言うんだ。
サフランはキリリとした端正な顔立ちの大人の姿だし、ベッドの上だということも相まって、その先の良からぬことも想像してしまう。オレだってそういう知識がまったくないわけじゃない。客がそういうことを話しているのを盗み聞きした程度だけど。
サフランが何を考えているか分からないけど、不安そうに眉を下げるものだから、意を決してゆっくりサフランの顔に顔を近付ける。痛いくらい心臓が脈打っていて、抑えるようにシーツをギュッと握った。唇に触れたら緊張がピークに達して、目の前が一瞬真っ白になった。
微かに掠める程度だったのに、オレもサフランも顔が真っ赤だった。
「なんでお前が赤くなってるんだよ」
「だって・・・ホッペにすると思ったから」
いつものおやすみのキスの事だったのかと気づいて、ますます顔が熱くなって頭から煙が上がりそうだった。
「なんで口にしたの?」
サフランは口を押さえながら上目遣いでオレを見る。なんでキスしたかなんてオレもよく分からなくて、なにより恥ずかしすぎてサフランの胸元に顔を埋めた。皮膚の上から見えるくらいサフランの心臓も脈打っている。
「に、兄ちゃん」
サフランはオレから身体を剥がす。
「どうした?」
オレが寄ると、サフランの腰が引けた。
「えっと、あっち向いてて」
サフランの目元が赤くなって潤んでいた。サフランが反対側に寝返りを打って背中を丸める。
すごくショックだった。嫌われたんだ。
キスなんかしたから。
「ごめん、サフラン」
情けないくらい声が震えていた。どうしよう、悲しくなってきて泣きそうだ。
「ごめん、もうこんなことしないから」
サフランの背中に手を当てると、ビクッとして何も言わず肘で押し退けられた。
いつもオレにべったりだったのに。初めてサフランに素気無くされてますます挫けそうになる。でもどうしていいかわからなくて、正座した膝の上に乗せた手が震え始めた。
「ごっ、ごめんなさい、嫌いにならないでぇ・・・」
ポロポロ涙が出てきた。情けない。こんなことで泣くなんて。オレ、サフランの兄ちゃんなのに。
オレも、サフランにべったりだったんだな。
サフランが好きだったんだ。
でも、サフランに嫌われてしまったのだと思うと胸が張り裂けそうに痛くて、悲しくて堪らなかった。次から次へと湧き出てくる涙を拭っていると、サフランがこっちを見て切れ長の目を見開いた。
「え、えっ、どうしたの」
オロオロしながら起き上がる。
だって、いつもと逆だ。サフランがべそかいてるのをオレが励ましたり発破をかけたりしていた。でも今はしゃくり上げるのを我慢するのが精一杯で何も言えなかった。
サフランは手を空中で彷徨わせていたけれど、やがて恐る恐るオレの背中に手を回してギュッとしてきた。オレよりずっと背の高いサフランに抱き締められるのは、包み込まれているようで安心する。サフランの腕をギュッと握った。
「兄ちゃん大丈夫?」
サフランはぎこちない手つきでオレの背中を撫でている。だいぶ落ち着いてきた。コクリと頷く。
「なんで泣いてたの」
「サッ、サフランに、嫌われたかと思っ・・・」
「えっ、なんで」
「オレが、キスしたから」
なんだかすごく恥ずかしくなってきて、サフランをギュッとして顔を隠した。
「兄ちゃん、僕、怒ってなんかないよ。大好き」
「本当に?」
じゃあ、なんであんな態度を取ったんだろう。まだ熱を持った目でサフランを見上げる。
サフランは目が合うとかああっと頬を赤色に染めて、抱き締めていた手を解いて少し身体を離した。
オレは不安になってサフランの腰に手を回してもう一度抱きつく。
「まっ、待って!だめ!」
サフランは肩を掴んでオレを引き剥がした。でも、確かに下半身の熱い塊が当たったのを感じてしまった。
サフランはペタンとベッドに座って、足の間に手を当てて、顔を赤林檎みたいにしながらプルプル震えている。
「兄ちゃんのバカ・・・」
鋭い金目で睨んでくるけど、眦に涙を浮かべていたから全然怖くなかった。
「もう寝るっ」
サフランは頭から布団を被ってしまった。でもはみ出した鳥の脚は先がキュッと丸まってまだ震えていた。
えっと、つまり、サフランはオレに欲情してたってことか?え、ってことは
「サフラン、オレのこと、好き?」
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