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「Excusez-moi!」
目の前にいたビジネスマン風の男が老夫婦とぶつかり、老婦が杖を落とした。男はスマートな仕草ですみませんと呟いて、杖を拾い上げると婦人に手渡した。
その掠れた声と広い背中を見た時、自分の喉元がぐっと締まるのが分かった。
違う。絶対に違う。こんな所で会うはずがない。そう思いながらも指先が軽く震えた。確かめないでおこう。スーツの前を手で押さえながら俯き加減で通り過ぎようとしたその時、声を掛けられた。
「光太郎」
間違いない。胸がぎゅっと締めつけられた。振り返りたくない。顔を見たくない。頭は拒否しながらも体は激しく反応していた。無視して進もうかと踵に力を入れたが、足が言う事を聞かなかった。
諦めてゆっくりと振り返る。男は十年前と変わらない表情で眩しそうに微笑んでいた。
「やっぱりそうだ。久しぶりだな」
行き交う人がうねり、世界が自分と男だけになった。
男の声が甘く響く。
――光太郎。
時間が止まった空港のロビーの向こうで、雪だけが激しく降り積もっていた。
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