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 藍沢がそんな風に自分を愛撫したのはそれが最初で最後だった。本当に、純粋に、いずれは誰もが覚える自慰という行為を、藍沢らしいやり方で教えてくれただけだった。  中学へ入ると、それも話題にならなくなり、あの日の行為が夢だったのではないかとさえ思うようになった。藍沢にとってはそれほど重要な出来事ではなかったのだろう。何も変わらない友情にそう強く実感した。けれど、自分にとっては人生を変えてしまうほどの特別な意味を持った行為だった。   あれはなんだったんだろう。  耳元で可愛いと囁いたあの声は、優しく頭を撫でてくれたあの手は、本当になんだったんだろう――。  あの日、藍沢がしてくれた行為の意味を、あの小さなおまけのようなキスの意味を、何度も何度も心の中で考えた。  高校生になり、お互いの交友範囲にずれが生じても二人は仲のいい友達のままだった。同じ時間に家を出て、一緒に昼食を取り、肩を並べて帰りの電車に乗った。藍沢どこにいる? と周りの友人が訪ねてくるくらい、二人は常に行動を共にしていた。  高校生になると自分の性的欲求をはっきりと感じるようになった。藍沢が自分の肩に手を置いただけで体温が高くなり、鼓動が速くなった。  俺の気持ちを知らない藍沢は、頻繁に体に触れるようなスキンシップをした。藍沢が背中を撫でる瞬間、冗談で抱きついてくる瞬間、その一つ一つが衝撃となって自分の心臓を締め上げた。苦しくて痛い。けれど、指の先まで甘く痺れるような酩酊感があった。動揺しているのを悟られたくなくて、触れられるたびに軽く拒絶した。  その反面、自分の体は藍沢が残した甘い余韻を、匂いや温度や質感に至るまで細部に渡って記憶した。

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