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三百便以上がキャンセルになったシャルル・ド・ゴール空港は足止めを余儀なくされた人々で変わらずにひしめきあっていた。
今日はここでクリスマス・イヴを迎えるしかなさそうだ。日付が変わればイブになる。時計を見るとあと少しだった。
パリ消防署の救急隊員たちが、サンドウィッチと食料品をロビーにいる人々に配り始めた。子どもたちにはクリスマス・プレゼントの代わりにチョコレートを配っている。
「それにしても、こんな所でおまえに会うなんてな」
藍沢はラウンジのコーヒーカップを片手に呟いた。小さなテーブルを挟んでお互いが向き合って座っている。まだ実感が湧かなかった。
「俺さ、ずっと引っ掛かってたんだ。おまえとの事が」
藍沢は一晩ここで過ごすしかない不幸を、小さな僥倖だと言って微笑んだ。これも何かの縁かも知れないから朝まで話でもしよう、と言われ素直に承諾した。
「生まれた時から高校までずっと一緒だっただろ? 俺の中でおまえは特別な存在で、家族とか幼馴染とか、友達とか……そういう名前が付けられないような、本当に特別な存在だったんだ。だから、高二の夏ぐらいだったかな。おまえが急によそよそしくなって、目も合わさなくなって……それが他人よりも遠くなったような気がして、俺は本当にショックだった。そのままの状態で卒業して、おまけに海外だかどこかへ何も言わずに引っ越してしまって、裏切られたような、取り残されたような気分になった。簡単に言うと酷く傷ついたんだ。……本当に何があったんだ?」
藍沢は組んだ両手をテーブルの上へ置いた。重ねられた長い指をじっと眺める。藍沢は変わっていない。そう思った。
「何も言わずに引っ越したのは、悪かったと思ってる。……色々、あってな」
「色々って?」
何から話せばいいのだろう。この十年は長かった。遅々として進まない渋滞の中を、どちらへ行くのかも分からず進んでいるような状態だった。
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