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「……まぁ、引っ越したのはあれなんだ。俺が大学へ入ったのを機に、両親が離婚したんだ。家族がばらばらになって、あの家も必要なくなった。俺は十八であそこを出てから、ずっと一人で暮らしてる。親ともほとんど会ってない。……ああ、そんな顔しないでくれ。気楽なもんだよ、独り暮らしは」
「……そうだったのか。全然、知らなかった」
「親の事だし……おまえの家族とは仲がよかったから、なんか言い辛くて。俺もまだ子どもだったし、色々な」
「なんか、意外だな。おまえの両親は凄く仲がよさそうに見えた。うちの親が羨ましがるくらい仲がいいと思ってたけど、外から見るんじゃ分からない事もあるんだな」
父親は俺が中学の頃からひと回り年下の女性社員と不倫していた。俺は気づいていなかったが母親は気づいていた。子どもの手が離れたら離婚するつもりだったのだろう。全ての準備を整え終えた母親は、俺が高校を卒業すると離婚届を置いてあっさりと家を出て行った。
「高校を卒業してから、何度かおまえと連絡取ろうとしたんだ。電話やメールなんかの連絡先は全部替えられたから、知り合いを頼ったり、大学へ行ったりもした。……結局、会えなかったけどな」
その言葉を聞いて驚いた。藍沢がそこまでして自分との関係を続けたかったとは思わなかった。あの別れの後も自分を探していてくれた。そう思って胸の奥がきゅっと収縮した。
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