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「俺も、俺なりに色々考えたんだ。おまえが急によそよそしくなった理由をな。自分でも嫌な人間だと思うが……俺は誰かから急に嫌われるような、特に理由もなく拒否されるような人間ではないはずだ。人間関係にはそれなりに気を遣ってきたし、誰かを傷つけたりもしていない。そこにはちょっとした自負もある。簡単言うと、色んな場面で自分の気持ちよりも相手の気持ちを優先させて生きてきたんだ。自分の好みに関係なく、常にそちら側を選んできた。おまえの事だってそうだ。俺はおまえと二人でいる時は、何よりもおまえの居心地のよさを優先させた。おまえの事を一番に考えてた。……それに俺は、誰よりも光太郎を信頼していたんだ。これ以上ないくらい、信用してた。まさかそんな奴から嫌われる羽目になるとは思ってもみなかった。無視した上に、黙って引っ越すなんてな。おまえは目の前から、すっと消えるみたいにいなくなったんだ。家の表札がなくなってるのを見た。窓から何も置いてない部屋が見えて、俺は目の前が真っ暗になった。引っ越した事も気づかなかったんだって……正直、堪えた。なんでこんな目に遭うんだって、こんな事をするんだって、憎んだ時もあったよ。俺が悪いんじゃない、おまえに何かあったんだって、ずっとそう思ってた。そう思わずにはいられなかった」
藍沢は深い溜息をついた。
「あの時からだったよな。おまえがおかしくなったのは」
藍沢は当時付き合っていた女の名前を口にした。一生、聞きたくない名前だった。
「深美と付き合うようになって、おまえはおかしくなった」
藍沢は自分に言い聞かせるようにそう言った。
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