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「俺、あいつを抱けなかった。抱けないって言うと綺麗すぎるな。正直に言うと、勃たなかったんだ」
藍沢は俺の本心を読むように視線を外さなかった。少しでも外したらばれてしまう。そう思った。心の動揺を悟られないために何気ない顔でじっとしていた。震えそうになる指先をテーブルの下に隠した。背中には冷たい汗をかいていた。
「俺さ、女ダメなんだ。深美と付き合ってみて初めて分かったんだが、ゲイなんだ」
「…………」
「あはは。悪い。そんな深刻な顔、しないでくれ。気持ち悪かったか?」
「いや、そうじゃなくて」
「ま、気にしないでくれ。こういうのは極めて個人的なあれだからな。深美には悪い事をしたと今でも思ってる。あいつは頭がよかった。全部、分かってたんだ。初めてそうなった時、裸の俺を抱き締めながら、光太郎くんの事が好きなんでしょって、諦めたように言われた。私と付き合ったのも逃げだったんでしょって……辛かったな、ホントに」
「…………」
「深美が俺を好きだったのはすぐに分かった。だから俺はそれを利用したんだ。もちろん、深美の事は好きだったよ。ただそういう意味での好きじゃなかった。あいつと寝たいとは思わなかったからな。俺は狡かった。深美と付き合えばおまえの事を忘れられるんじゃないかって、男が好きなのは気の迷いで、女とやったら何か変わるかなって、そう思ったんだ。自分が同性愛者だなんて認めたくなかったし、怖かった。おまえに対する異常な気持ちも知られたくなかったし、終わりにしたかった。深美を愛して、おまえとは友達でいようって、本当にそうしたかったんだ。どこかで軌道修正しないと取り返しがつかなくなる。高校生の俺は、もう頭の中が滅茶苦茶だった」
藍沢はテーブルへ視線を落とした。
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